岡本喜八の心優しき声を聴け!

画像今年の2月19日、
食道がんのため81歳で亡くなった映画監督、
岡本喜八への哀悼の意を込めて、
「追悼 岡本喜八監督の軌跡」と題された特集上映が
池袋の新文芸坐で現在開催されている(6月10日まで)。
これはぜひとも多くの映画ファンに駆けつけてほしい、
今年屈指の好企画だ。

ボクが喜八監督の存在を知ったのは、
お恥ずかしながら北林谷栄の名演が今も忘れられない痛快犯罪コメディ、
『大誘拐 Rainbow Kids』(1991)を大学2年のときにレンタルで観たのが最初。
もちろんその頃は、監督がどれほど日本映画にとって偉大な人物だったのかも、
戦中派を代表する旗手だったのかということも、そして、
監督の映画作りのルーツが西部劇にあったということなんかもまったくもって知ることはなく、
だから、興行的にも評価的にもイマイチだった 『EAST MEETS WEST』(1995)を
ボクも観たけどこれと言って面白いとは思わず、いつしかそのまま喜八監督の存在は薄れ、
けっきょく遺作となった 『助太刀屋助六』(2001)も観ないまま、今日へとあいなってしまった。だから、
そんなボクが、いつものにわか仕込みの浅い知識で喜八監督の映画について語ろうなんてことは、
それこそ天に唾する如き愚かな行為だと思うので、
そのあたりは同じく新文芸坐に今後も通われるであろう諸先輩方に道を譲り、
今回はボクが観た数本の喜八作品に対する個人的な感慨だけを書くに留めておきたいと思う。

で、ボクが何本かの作品を観て何より深く感じたのは、監督の、
苛酷な戦争を体験した者だけが体得しうる、生きるということに対する飽くなきバイタリティーと、
自身の苦い青春時代に対する多少メランコリックにデフォルメされた自虐的な切なさ、そして、
戦争で無下にも死んでいかざるを得なかった、おそらくは多くの仲間たちや、
想像を絶するような酷い目に遭わされたに違いないすべての女性たちに対する底ナシの優しさだ。
戦争体験をやたらと重く描くこともなく、戦中派の心情を戦後世代にむやみに押しつけることもなく、
監督は時に、あの峻烈を極めた日中戦争をカタルシス満点のアクション映画に、
日本人と中国人の戦火を越えた娯楽的男と男の友情ドラマに、そして、
戦場下における男と女の粋なやりとりに心くすぐられる恋愛譚に仕立て上げては次々と見せてゆく。
決して曇らず、決して湿らず、常に監督は軽快さを信条に映画を撮っているので、
それらはより一層観る者の心にやわらかく沁みてゆくことになるのだ。だから喜八映画は、泣ける。
そしてそんな監督の才気と心情とがうまく結実して時代を越えてなおその代表作とされているのが、
『独立愚連隊』(1959)と 『独立愚連隊西へ』(1960)の傑作2本だ。
これらにより、監督は当時の日本映画に新風を吹き込むことになるわけだけど、
さすが成瀬巳喜男やマキノ雅広の助監督を務めていただけに、
その娯楽性とドラマ性のバランス感覚は実に見事で、今なお映画としての新鮮さを失ってはいない。
こんなに面白い映画をこの現代に劇場の大スクリーンで観られるなんて、それこそ“奇跡”である。
また、戦争の意味を問い直したという意味で、
後に監督の中期以降の代表的3部作と称されることになる、
『肉弾』(1968) 『吶喊』(1975) 『近頃なぜかチャールストン』(1981)の3作品も、
当時のATG映画ということもあって、娯楽作品というよりは、
ヨーロッパ映画の影響も見られるコミカルな作家映画としての色合いが濃くはなっているものの、
その根底に流れる熱い想いは 『独立愚連隊』 の頃となんら変わってはおらず、ただそこに、
しだいに拡がってゆく戦中派と戦後世代とのジェネレーション・ギャップに対する
アイロニカルな思想が加わって、これまた今観ても力強い普遍的反戦映画として仕上がっている。

今の時代に81歳なんて人生まだまだこれからという年齢だ。
もしも監督が病魔に冒されることなく、今もバリバリ映画を撮っていたなら、
ロクに観てなかったクセによく言うけど、いったいどんなことをボクたちに訴えようとしていただろう?
それともやっぱり、そんな野暮なこといちいち俺が言うもんか!と、
高らかに笑いながらただひたすら“愚連隊”みたいな映画をブッ放していたんだろうか…?

映画を旗に、人間が生きてゆくことの凄さを生涯謳い続けたひとりの男の熱い魂と、
その魂の奥底から聞こえてくる本当の優しさに充ちた、「死んだらダメだぞ」という声に、

どうかアナタも、静かに耳を傾けてほしい。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0