“人生は奇跡”なんて気恥ずかしさも、民族的バイタリティで納得! 『ライフ・イズ・ミラクル』

画像この映画の舞台である
ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国の首都サラエボを、
仮に“男か?女か?”で表現するとしたら、
これは間違いなく“女”だな、
と市街地の中心を流れる川の畔をブラブラ歩きながら、
ボクは当時そう思った。
かつて激烈を極めた旧ユーゴ内戦の主要舞台だったとは
にわかに信じ難いほど静謐なたたずまいを見せる街並み、
8月の太陽は燦々とまぶしく、道行く人の表情はみな穏やかで、
ブルガリアのソフィアを発ち、
マケドニアのスコピエ、アルバニアのティラナを経て、
そしてモンテネグロを突っ切るカタチでボスニアへ入国するという、
かなりハードな行程を3日間に凝縮して疲弊し切っていたボクは、
すっかりサラエボという見知らぬ街の懐の豊かさに癒されていた。
「いい女だなぁ…」
そんな感慨が、思わずそぞろ歩きのボクの脳裡に浮かんだのだ。
(当時、ソフィアからサラエボへの最短距離の真ん中にはコソボがあるため、ベオグラード経由か、
もしくはマケドニア-アルバニア・ルートでしかボスニアへ入ることはできなかった。今は知らない)
でも、よくよく街を見渡せば、至るところ建物の外壁には無数の銃弾の痕があり、
路面はそこかしこで深く抉られたまんまで、爆撃を喰らった新聞社のビルは、
破壊された当時のままの姿で内戦の精神的傷痕忘れじとその骸を白日のなかに晒している…。
なのに、決して街が醜くない。傷だらけでありながら、
あまつさえその傷によって街が街としての“艶”を深く増しているようにさえ歩く者に感じさせてしまう。
この街はきっと、戦争という“男”たちによって何度も奪い合いをされ何度も何度も傷つきながらも、
しかしその芯の部分だけは頑なに守り続けてきたそんな“女”のような街なのだ。ボクはそう思った。
そう、サラエボという街は、
性格はいいし、器量もいいし、顔立ちは美しく、スタイル抜群、なのに決定的に“男運”が悪いという、
そんな、男としてどうにもその過去が気になって気になってしょうがない、そして、
絶やさぬ笑顔のなかに時おり見せるふとした翳がたまらなく男だったら一度はドップリ溺れてみたい、
どこか小岩か錦糸町あたりの小ぎれいなスナックの美人若女将、みたいな街なのだ。
(まぁ小岩・錦糸町なんて行ったことないし、そんなスナックの若女将見たことも会ったこともないけど)

そんな懐の深いイイ女(街)に抱かれながら日々を過ごすサラエボの男たちは至って元気、そして陽気。
そぞろ歩きの最中に立ち寄ったカフェ・バーでは、
昼日中からいい男たちが酒を呑みながら自分たちの国や民族について熱い議論を闘わせていた。
(会話のところどころで「ボスニア! ボスニア!」と叫んでいたので、旅行者の憶測によりそう判断)
ボクはそこに、
民族と宗教が複層的に重なり合い時に混沌を見せる彼の地の民族的バイタリティの片鱗を見たような気がしたのだ。

1992年、ボスニア。
兵役に徴収された息子が敵側の捕虜になったことを知らされた、鉄道技師のルカ。
そんな折、息子を救うための人質として敵国の女性、サバーハが送られてくる。
初めのうちは奇妙な共同生活に戸惑うふたりだったが、いつしか民族を越えた愛情が芽生え始めて…。
この、『パパは出張中!』 『アンダーグラウンド』 『黒猫・白猫』 などの圧倒的名作の数々で知られる
ユーゴスラビア出身の世界的名匠、エミール・クストリッツァ監督待望の最新作 『ライフ・イズ・ミラクル』 は、
ガサツで、旺盛で、にぎにぎしく、しかし憎めず愛嬌深い、
そんな複層的であればこそ逆に生まれる彼の地に生きる人々の多民族的食い気の多さを下地に、
紛争下の苛酷な状況を見せながらも、しかし戦争も政治も宗教も思想もいっさい描くことなく、
ただひたすら生きることの爆発的な歓びをなんの奇もてらうことなく正面から描き切った痛快な傑作だ。
“ライフ・イズ・ミラクル=人生は奇跡”なんてボクら日本人は少し引いてしまうようなベタなタイトルも、
“人間賛歌”なんていういかにも識者が口にしそうな表現の持つ仰々しい響きも、
ボクらほぼ単一民族は憧れるしかないその民族的バイタリティが
“素”の表情として映画に込められているからこそまったく臭みを感じない。今もきっと、
世界のあらゆる場所で戦争は起こり、殺戮が行われ、分刻みで多くの命が容赦なく奪われ続けている…。
でも、そこに生きる人たちもきっと、この映画の登場人物たちのように、
明るく、にぎやかで、食いっぷりがよく、そして恋や歌や踊りが大好きに違いないのだ。
だからこそ、この映画とは関係ないところで、
ボクらが今いちばんよく聞いて知っているイラクやイギリスの悲劇にも思わず胸が締めつけられてしまう…。

“普遍的”とは、こういう映画を指して言うのである。

本作を観て、彼の地に憧憬を抱いたという人は、ぜひとも出かけてみてほしい。
そこはヨーロッパのようでいて、まるでボクらの知っているヨーロッパではない。行く前に、
『ブコバルに手紙は届かない』(1994)
『アンダーグラウンド』(1995)
『ボスニア』(1996)
『パーフェクト・サークル 戦場の子供たち』(1997)なんかを観てもいい(上下2本は重いけど)。

こんな狭い国に暮らしているボクらがアタマのなかでゴチャゴチャ理屈をこねたって、
そんなもんなんの意味もない。旅の動機は憧憬だけで充分だ! とにかく見る、そして歩く。

ヨーロッパを旅するなら、ボクは断然、バルカン諸国をおススメする。

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