ロシア映画の大逆襲!? ② 『ククーシュカ ラップランドの妖精』

画像

フィンランドが舞台のロシア映画を日本で観る―。
よくよく考えてみると、
これは“3軒並んだ”お隣同士が仲良くするようなかなりピースフルな1本だ。
そして、大国ロシアを挟んだ小国フィンランド(人口約500万人)と日本には、
ある歴史的な共通項がひとつある。それは、日本とフィンランドは、
“ロシアの隣国のなかで歴史上、ロシアに占領されたことがない国である”ということ。
ボクはこのことを、ヘルシンキの街並みからちょいと外れた湖の畔を散歩しているときに、
犬を連れたさも温厚そうで恰幅のいいフィンランド人のオジサンから丁寧に教えてもらった。
“歴史学科卒業”だったら当然知ってて当たり前の歴史的事実に、
ボクはそのときはじめて気がついた。
「フィンランドはこんなに小さな国なのに、あんなに大きなロシアに勝ったんだ。ワッハッハ」
デッカくて人懐っこいオジサンの愛犬がボクの足元にジャレついてくるなか、
彼はそう言ってさも楽しげに笑った。
11月だったら余裕でオーロラが見られるというラップランド方面には、
けっきょく金銭的な問題を含めて行くことは叶わなかったが、
湖の彼方の雲間から時おり射し込む凍てついた北欧の大地を照らす陽光を見られただけで、
ボクは心から満足することができた。
「日本もロシアに勝っただろ? そう、フィンランドと日本は“同じ”なんだよ。な、ワッハッハ!」
そのオジサンの言葉を機に、ボクは、「もうこれで、日本に帰ってもいいよな…」と、
1年間におよぶユーラシア大陸横断の旅を終える決心を改めて固めた……。

アキ・カウリスマキの映画や、現在絶賛上映中の 『かもめ食堂』 にも、
ボクはフィンランドで感じたのと同じ“空気”をスクリーンから感じたけれど、
この 『ククーシュカ ラップランドの妖精』 に感じる超自然的な空気の方が、
より、ボクのなかのフィンランドのイメージに近いような気がしないでもない。

画像

 1944年、第二次大戦末期。フィンランド北部のラップランド地方。
 サーミ人のアンニ(アンニ・クリスティーナ・ユーソ)は、
 空爆を受けて瀕死の重傷を負ったロシア軍人(ヴィクトル・ヴィチコフ)の命を救い、看病する。
 そこへ、平和主義的発言をしたとして仲間から酷い状態で置き去りにされた、
 フィンランド兵士のヴィッコ(ヴィル・ハーパサロ)も転がり込んで、
 お互いまったく言葉の通じない3人の奇妙な共同生活が始まる……。

ラップランド地方独特の目に胸に沁み入るような超自然的風景を舞台に繰り広げられる、
“言葉の壁”をネタにしたかなり古典的でベタでかつシュールな物語は、
とにかく上方漫才のようにバカバカしくも(イイ意味で)微笑ましく温かい。
世界を舞台に“生きる”という人間の根源において、言葉など本来必要ないというテーマ性は、
描き方は違うけど、正月明けに公開された傑作 『スパングリッシュ』 にも共通していると思う。
これは、うまく人間関係を保てないコミュニケーション不全の物語が自然に癒され解放される、
かなり緩めの現代人のお伽話、ちょっとお色気もある大人の童話……。
身振り手ぶりを使おうとせず、
とりあえず大声で自分の言葉を押し通そうとする3人の姿はまさにいろんな意味で現代的だ。
そして、言葉が違おうが年齢が違おうが肌の色が違おうが(3人は同じだけど)、
けっきょく最後は“男と女”。すぐさま彼らの関係は三角関係へと発展してゆく。
この“セックスと下ネタに国境はない”というテーゼがロシア映画とは思えない(?)大らかさで、
映画の牧歌的な雰囲気も相まってさらに物語を“艶(つや)”のあるお伽話へと昇華させてゆく。
(そうだよ、セックスに国境はないんだよ。
 なのにどうして俺はいつも“国境”が越えられないんだろう…。そっちへ行きたいだけなのに)

後半で突然起きる悲劇も悲劇とはなさず、それはまるで、
新たな北欧神話への入り口となってなんとも言えない空間へと映画はミュータント化してゆく。
ラストは理想主義というよりも、
人が心からリラックスしたときになんでも許せてしまうような気分に浸るときの心地好さだろう。
今作をコミュニケーションの寓話と捉えることもできるけど、
過剰に現実に即して解釈してしまうのももったいないような気がボクはする……。

大味な顔の作りがだんだん愛らしく思えてくるクリスティーナ・ユーソが魅力的。
画像
人生にホトホト疲れてどことも知れない幻想的な場所に迷い込んだと思ったら、
やけにかいがいしく世話をしてくれる女がいて、
しかもわりとすぐにヤラせてくれてなおかつ喰いつきがすこぶるよかったという、
これはそんな男本位なファンタジーとして観ることもできる懐の深い1本なのだ。

監督は、数年前に東京国際映画祭で紹介された(だけだと思う)、
『チェック・ポイント』 のアレクサンドル・ロゴシュキン(実にロシアっぽい名前だ)。
語り口になめらかさの欠ける点もあって決して名作とも傑作とも言えないけれど、
これまた今までのロシア映画にあるようでなかった世界はできれば劇場で体感しておきたい。
一見通好み、だけどその実は万人に開かれた捨て難い佳篇だ。

[ 渋谷 シネ・アミューズ にて公開中 ]

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0