そこは、ヨーロッパのオモチャ箱…大傑作! 『プラハ!』!

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♪カフカ シュワンクマイエル~ チェコより不思議な彼女~♪
(筋肉少女帯「君よ、俺で変われ!」のメロディで♪ 知らねぇか誰も…)
ヨーロッパへ行こうと思っている女のコがいたらボクがススメるのは断然チェコ!
絶対にチェコ! ボクの映画評なんて当てにならないがこれだけは信用してもらいたい。
オーストリアのウィーンからバスで首都プラハに入って1ヵ月。
プラハ→ブルノ→テルチ→※インディクフラデツ→チェスキー・クルムロフ→プラハと全土一周。
(※は地図にもガイドブックにも記載のない街だったのでホントにこういう名前の街だったか?)
再びバスでポーランドのヴロツワフに抜けるまでかなりゆったり旅をしてかかった金額約6万。
もちろん旅は安けりゃいいってもんじゃないし(金額は今から6年前、2000年9月当時のもの)、
当然、泊まる宿はユースホステルほか各種安宿ばかりだったんだけど、
それでも毎日、城を散歩して博物館めぐりしてバスや列車で地方へも出かけて、
暇な時間はヨーロッパ映画を探して観て疲れりゃビール呑んで(マジで世界一!!!)毎日肉料理。
(東欧圏諸国は共産主義時代の名残りで物価が低く抑えられている。あくまで当時の話だが)

旅した時期は9月。中央ヨーロッパの晴れでも雨でも穏やかな気候、人は心底温かく、
城から眺める目にやさしい赤が基調の街並みはまさしく“オモチャ箱をひっくり返した”が如し。
でも、大通りから一歩路地へ入ればそこには突然怪しい古時計屋がポツンと口を空けており、
シュワンクマイエル的湿度の高い淫靡な空間とカフカ的不条理に包まれて、あたかも白日夢。
とてもじゃないけどその深くて味わい深すぎるチェコの魅力をひと口で言い表すなんて無理だ。
そこで、けっこう頻繁に書いていた当時の旅日記からその魅力に感化されている文章を転載。

  9月5日(火) 曇り ブルノ~オロモウツ~ブルノ

  今日はいつもより早く起き、日帰りでブルノの北東に位置するオロモウツを観光。
  (中略)
  しかし、なんとなく訪れたあのオロモウツが、
  あんなに味のある侮れない町だとは思ってもみなかった。
  トラム(注:チンチン電車)の扉が開閉する時に流れる妙なメロディ。
  名物・仕掛け時計の愛らしい音楽を台無しにする、最後の中途半端なニワトリの鳴き声。
  異様な充実ぶりを誇る博物館。
  その驚くべき数の動物の剥製、昆虫の標本、そして無数のカエルのホルマリン漬け。
  昔の呪術的儀式について説明するコーナー前に設けられた何故かタロット占いのブース。
  そしてなんと言っても極め付けは、
  親日家のおばあちゃんがいかにもなエスニック音楽をポチっとなとラジカセで流してくれる、
  チェコとの関連性が全く見えないインドネシアはスマトラ島のコーナー!!
  隣の美術館の「現代アート」コーナーに展示された、“割れ目”パックリの女体像や、
  ブルブル震える巨大な“ハム”のオブジェなどのクダラナサもなかなか渋く捨て難かった。
  百聞は一見。目からウロコ落ちまくり。チェコの不思議さ可愛さ、
  そしてカフカやシュワンクマイエルの底流に触れたかのような……(以下つづく)

転載ついでに今作のタイトルでもあるプラハを散策したときの印象はこんな感じで書いてるが、
なにやら文体が“北方謙三”なのはきっとその時ハードボイルドな気分だったからと思われる。

  (声を低めて溜めながら読む感じで)
  9月21日(木) 雨 プラハ

  街を歩いた。
  火薬塔から旧市街地広場を抜けて、カレル橋を渡り、城へとつづく道だ。
  雨が降っていた。それもいい。そう思いながら歩いた。プラハには、冷たい雨がよく似合う。
  塔の上には、あまり人がいなかった。街はそれを知っている。
  見られていない。そんな時、街はほんの一瞬、表の顔を外す。その時がいい。
  城の前で、日本の女に会った。一緒に写真を撮った。いい女だった。
  プラハには、冷たい雨と、いい女がよく似合う。
  雨。女。ネオン。地面に額をつけ、震えながら手を差し出す物乞いの青年…。プラハよ…。


どうして“ネオン”とまで書いたのかは自分でもよく思い出せないが、とにかく、
表情豊かだったチェコの街や町の魅力は当時の日記を読み返しただけでもよみがえってくる。
でも当然その気品や愛らしさの根底には歴史の翳が秘められていたことも忘れちゃならない。
上の日記にもあるように、街中にはごく少数ながら物乞いをしている人の姿も見られたし、
それはなにより10年経ても悪しき共産主義時代を引きずるチェコの負の表情だった。
レストランでいっしょにビールを呑んだチェコ人の男性はチェコの失業率の高さを嘆いていたし、
チェコだけじゃなくポーランドにしてもバルト三国にしても東欧圏諸国の街がくすんでいるのは、
各国で何10年もつづいた共産主義が歴史遺産の修復をずっと許さずにいたからだ。
(だけどそれが“怪我の功名”となって、西欧にはない味わいを醸す結果にもなったんだけど…)

あれから6年近く経って通貨もコルナからユーロに変わり(ね?)、
もしかしたらチェコも今どんどん西欧化していってるのかもしれないけど、でも、
あの旅でボクが感じた、“本当にいい女には人に言えない過去がある”的なチェコの魅力は、
ユーロに変わったって国家が“西”に向きっ放しだって、そう簡単には変わらない(と信じてる)。
そこで!
そんなチェコの(本来ならスロバキアも含めて書くべきなんだけど、行かなかったので便宜上)、
単に品があって可愛いだけじゃない魔法的に彩り豊かな魅力と、
歴史の傷痕があるからこそタフでしなやかな街とそこに暮らす人々のバイタリティが、
心躍る古き良き60年代ポップスによるミュージカル・シーンとともにポジティヴに炸裂した、
甘酸っぱい青春の切なさに充ちつつ最高に至福の1本がコレ! 『プラハ!』
マジな話、これは大量に公開された今年のGW映画のなかでも極め付けの1本かもしれない。
ボクのようなチェコ好きじゃなくても真の映画好きなら絶対に観逃してはもったいない傑作だ!

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 1968年、“プラハの春”を謳歌していた夏のチェコスロバキアで、
 高校の卒業試験を間近に控えた、テレザ(スザナ・ノリソヴァー)、
 ブギナ(ルボシュ・コステルニィー)、ユルチャ(アンナ・ヴェセラー)の3人は、
 燃えるような恋と甘いロスト・ヴァージンに憧れながら毎日を明るく過ごしていた。
 その頃、社会主義体制に反対し、
 アメリカ亡命を夢見て軍を脱走したシモン(ヤン・レーヴァイ)ら3人が町まで逃げて来る。
 偶然出会ったテレザはひと目でシモンと恋に落ちてしまうのだった……。

多くのミュージカル映画の名作群がそうであるように今作もストーリーは至ってシンプル。
要は頭の中が男のコのことでいっぱいでロスト・ヴァージン(いい響きですな)に憧れてる、
3人の女のコのひと夏限りの甘酸っぱい経験(いい響きですな)が、
カラフルでキュートな60年代レトロ・ファッションと、当時フランスのアート映画にもよく見られる、
幾何学的ポップ・アートが融合した(小西康陽がよろこびそうな)ダサ可愛くてスタイリッシュで、
まるで夢のようなミュージカル・シーンとともにエネルギッシュに描かれてゆく。ただそれだけ。
前半の、気恥ずかしくも懐かしテイスト満載のベタな青春群像は、
チェコという国に対する距離感も相まって、くすぐったくも心地好く、
耳にそして心にやさしい数々のポップ・ナンバーに乗って過不足なく展開してゆく。
主人公の3人はじめ、出てくるキャラはみんな根っから純情で素朴で善良な人間ばかり。
時は、1968年。旧ソ連の社会主義体制下で推進された当時チェコスロバキアの自由化政策、
通称“プラハの春”の幸福感に浮き立つ人々の感情がそのままドラマの幸福感へとつながる。
この時代背景だけは、今作を楽しむ上で知っておくべき事柄かも。

そして後半、ただ明るいだけではすまされなかった時代の事情が、
主人公テレザたちの生活にも影を与え始めて映画は俄然、物語としての奥行きを増してゆく。
しかし、だからと言って映画が決して暗い展開になるわけじゃない。
“プラハの春”からそこへ旧ソ連率いる共産圏が軍事介入に至るという(通称:チェコ事件)、
その時代の波に翻弄されるテレザやシモン、その他諸々の恋の顛末を描くことで、
あの、重く苦々しくも、現代チェコとスロバキアの要となった時代が、
両国にとっての“青春期”だったことを映画が今、証明してみせるのだ。
もしかするとこれは、21世紀になって国家としての成熟期を迎えつつある、
チェコの、抑圧のなかから自由を獲得しようとしていた時代への郷愁を謳った、
国家的青春賛歌なのかもしれない……。現代チェコは、もう立派な“大人”なのだ。

時代を象徴させるために機能する名曲「想い出のサンフランシスコ」の使い方も最高にうまい、
とにかく全篇、溢れんばかりの映画的僥倖と青春のホロ苦さに充ちた宝石箱のような映画!

なかでも、↓主人公テレザを演じた、にわかには信じられないぐらいカワイイ、
個人的には“チェコのエビちゃん”とでも呼びたいようなスザナ・ノリソヴァーが、
“ノーブラ・ワンピース”姿で土砂降る雨のなかをハツラツと歌い踊るシーンは白眉中の白眉!
ボクがこうやって書くとどうしても下品に感じるがそれを抜きにしたって(ウソ!!)、
このシーンのためだけでもDVD即買いは必至である! その前にまず劇場で!
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とにかく騙されたと思って観てほしい!
もとは古くから知られた“映画大国”で、
ここ10年はハリウッド映画がロケ地に選ぶことでもすっかり往年の活気を取り戻したとされる、
チェコ映画界の充実ぶりを示し同時に、
『コーリャ愛のプラハ』 や 『この素晴らしき世界』 や 『ダーク・ブルー』 など、
近年チェコ映画の名作たちを凌駕して余りある真のチェコ・テイスト満載の大傑作!
ミロシュ・フォアマンやシュワンクマイエルやカフカだけがチェコじゃないゾ!

ヨーロッパと聞いてもいまだにフランスやイタリアという女に興味はねぇが、
こういう映画を誰に口外することもなく、
ひっそりと自分だけの宝物にしているようなそんな女のコがもしいたら頼む俺の面倒見てくれ。

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