大傑作! 『ココシリ』 は海抜4700mが舞台の中国製ウエスタン!

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10代の頃にこの足で訪ねてみたいと切実に願っていた国は、
20代の後半に厳選してそのほとんどを独り旅して歩いたから、
この先二度と日本を出ることがなくても後悔はないんだけれど、
それでも未踏であることを気にしている場所があるとすればそれはチベットだ。
中国国内でありながら間違いなく中国とはすべてにおいて一線を画し、
神々しく連なる山々に守られた、仏の御加護のもとにある静謐なる場所……。
未踏である分そのイメージは過分に映像メディアの影響を受けているのは確かだけど、
ネパールやインド-パキスタン北部を知っているだけにそれはより具体的。
アジアを横断しようとしたときに、中国ルートをたどろうかインド・ルートをたどろうか考えた末、
けっきょくボクは当時最も憧憬の強かったインドへ廻るルートを選んだのだ。
その選択に今後悔は微塵もないけれど、チベットに強く惹かれたのも事実。
だけど、ただ一度の長い旅でそこまでの贅沢はできなかった。
イメージが神々しすぎてインド以上に近寄り難い印象もあったし、
だからこそ一週間やそこらの寄り道感覚で行くのは嫌だったのだ。

『セブン・イヤーズ・イン・チベット』 や 『クンドゥン』 など、
ひと頃ハリウッドがチベットが舞台の映画を何本か作り、
それらはいずれも素晴らしい作品だったと思い出すけど、
しかしその反面、上記の映画のベースとなっていたのは、
中国とチベットの間に横たわる問題を度外視した西洋からの一方的な“チベット幻想”だった。
そういう意味で、中国がチベットを正面から描いたという今作の意義は途轍もなく大きく、
たとえそれがチベットの自然は中国が守っているというプロパガンダ的意味であったとしても、
そこにはチベットと中国のより良い関係を願う人々の想いも確かに込められていて、
だからもともと実話から生まれたというこの物語には映画以上の説得力があり観応えも充分。

そして、それらひと言では語り尽くせない根深い問題を差し引いたとしても、
この、たった88分に凝縮された、チベットの現実に生きる人々のたくましい姿を捉えた物語は、
きょうをギリギリ生きる男たち、そんな男たちを待つ女たちの哀歓に溢れとてもロマンチックで、
その密猟者と密猟者を追う山岳パトロールとの熾烈な戦いという構図には、
まるで硬質かつ上質な西部劇を観ているかのような緊張感があって観る者をクギづけにする。

今作は、下界の常識など通用しない海抜4700mの秘境が舞台のチャイニーズ・ウエスタンだ。

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 中国青海省チベット高原、海抜4700mの高さに位置する秘境地帯“ココシリ”は、
 欧米で取り引きされる最高級毛織物“シャトゥーシュ”の元となるチベットカモシカの生息地。
 危険な山岳パトロール隊の仕事の実態を取材するためにココシリへやって来た、
 ジャーナリストのガイ(チャン・レイ)がまず目にしたのは、
 密猟者の一味に殺害されたパトロール隊員の葬儀だった。
 やがて隊に同行して取材を開始したガイは知られざる秘境で、
 密猟者とパトロール隊の熾烈な戦いを目の当たりにする……。

「ココシリ」とは、
チベット語で“青い山々”、またモンゴル語では“美しい娘”を意味する言葉なんだという。
その言葉の意味どおり、
まさしく神々しいと言うに相応しい息を呑むほどの大自然を捉えた映像がとにかく美しく、
だからこそ、その聖なる土地に先祖代々の愛着を持つ男たちの、
密猟に対する熱い怒りが全篇にほとばしり映画は魅力的に輝く。
金にも名誉にもならないただ危険な仕事へと男たちを衝き動かすのは民族としての誇り……。
映画は、山岳パトロールの実態を街から来た一人のジャーナリストの視線を通して描くことで、
観客に対しスクリーンとの一定の距離を保たせ彼が目にしたすべてを追体験させてゆく。
そこに見えるのは、下界的な虚飾を剥ぎ取り、ただ“生きる”ことにしたがう人間の生々しさと、
そしてただ“生きてゆくしかない”という非情なまでのリアリズム。
密猟者たちが絶対の悪なんじゃない。彼らもまた、生きてゆくためにはそうするしかないのだ。
パトロール隊の隊長が(チベット出身の名優というデュオ・ブジエが素晴らしい!)、
一度は捕えた密猟者たちを仕方なしに逃がすときに言う「仏のご加護を」というセリフや、
ナイフで食用の肉を削るときに刃は絶対に人の方には向けないと話す件からもわかるとおり、
この映画には、誇り高きチベット人の姿を通して、人が人として生きる上で守るべきルールと、
ボクら現代人が忘れてしまった、“生かされている”ことへの感謝の念が込められているのだ。

金を得るためなら何をしてもいいなんて考え方は絶対に間違っているんだ!

監督は、ある地方警官が失くした拳銃を取り戻すために奔走するというありきたりな話ながら、
それを中国映画らしからぬケレン味に充ちた見せ方で才気を感じさせたサスペンス佳篇、
『ミッシング・ガン』(2001)の新鋭監督、ルー・チューアン。
スタッフ全員が高山病と闘い、
時には点滴を打ちながら撮影に臨んだというその映画的使命は、見事スクリーンに結実、
180日間にもおよぶ現地ロケというダイナミックなスケールはとにかく凄い映画的迫力だ!
WEBに記載がないので不確かなんだけどエグゼクティヴ・プローデューサーには、
ハリウッドで 『ヘブン・アンド・アース』 を製作して失敗しながらも、
今から15年ほど前に、『双旗鎮刀客』 という“中国版 『用心棒』”的傑作を撮ったフー・ピンや、
アメリカと台湾の間で 『ダブル・ビジョン』 を成功させたチェン・クォフーの名前もあるので、
国際市場も視野に入れた映画的バランス感覚も超一級。

とにかく!
ダイナミックな映像とハードでロマンチックな物語に万感震える大傑作! 観なきゃ損するぞ!

[ 日比谷 シャンテ・シネ にて公開中 ]

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