“シャンティ シャンティ”と不確かな明日へ― 『トゥモロー・ワールド』

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少子化そして高齢化が、
凄まじい加速ぶりで進むなか、
いよいよ日本の人口も減少し始めて、
こんな話も決して映画の中の絵空事とは言い切れない時代になってきた。
イラクのように早、半ば慢性的な戦争状態にある国じゃ、
なんの罪もない子供たちが毎日毎日ボロボロ無残に死んでゆき、
アフリカでも同じく親から病気を受け継いだ子供が何千何万と死んでゆく。
ところが少子化の進むこの日本じゃまだまだこれから少しぐらいは楽しいこともあるだろうに、
半径たった5mの狭い世界のなかで人生のすべてに絶望した子供たちが、
次から次へと自らの命を絶って世の中荒んでゆくばかり。
マジメな話、どこもかしこもこんな世界ならばいっそのこと、
映画のように子供なんて生まれない世界になった方がいいんじゃないかと、
30半ばで子供どころか結婚さえしていないことに多少の世間的後ろめたさを感じつつも、
“DNAのバトン”を投げ出すことを本気で覚悟しつつあることもまた本心……。
格差社会が広がり下層に暮らす人間は諦めるしかないと言わんばかりのこんな世の中で、
政治家はドイツもコイツもテメェの保身ばっかり考えやがって何が美しい日本じゃアホらしい!

と、そんな終わりのないグチを吐くのはとりあえず、
シリーズ自体に興味がないので観てないけれど、『ハリー・ポッターとアズガバンの囚人』 で、
一躍、大作監督の仲間入りを果たしたメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン監督最新作、
『トゥモロー・ワールド』 はしかし、そう遠くない未来、人間が生殖能力を失い、
まるで子供が生まれなくなったことで人類が崩壊してゆく様子を描いたデストピアSF。
大作にしてはえらく地味だし細部の詰めを甘く感じはするものの、
だけど決して突き放すワケじゃない懐の深いアイロニーと、
それに呼応する作家の熱いメッセージが快いドラマに決して印象は悪くない骨のある力作だ。
単純に観れば設定だけの大作SFかもしれないが、
その言わんとするところに、ボクら現代人は耳を傾ける必要があると思う。

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 西暦2027年、
 人類は18年間に渡って子供が1人も生まれないという未曾有の異常事態が続いており、
 このままでは人類絶滅の危機を免れないような状態だった。
 そんななか、エネルギー省官僚であるテオ(クライヴ・オーウェン)は、
 元妻ジュリアン(ジュリアン・ムーア)率いる地下組織“FISH”に拉致される。
 目的は通行証。彼女たちは極秘裏に“ある少女”を、
 “ヒューマン・プロジェクト”と名乗る団体に引き渡そうとしていた。
 しかし、人類の未来はおろか自分の将来にさえ興味を示さないテオは、
 その少女こそが人類を救う存在であることを知る由もなかった……。

おそらく、キューブリックが生きていれば監督していたかもしれない殺伐とした人類の未来―。
映画のなかで、なぜ子供が生まれなくなったのかという明確な理由については語られない。
(2008年に世界的に流行したと言われる“インフルエンザ”がその原因なんだろうか…?)
だけどSFの設定というのは大方人類社会に対する教訓や警鐘というメタファーなので、
そこに説得力を求める必要なんて微塵もない。

主人公テオを演じるクライヴ・オーエンとともに、
最後までドラマを牽引する役目を担うと誰もが思っていたジュリアン・ムーアが、
早々に銃弾を浴びて死んでしまうという意表を突いた展開で観客を驚かせながら、
キュアロン監督は、奇蹟的に子供を授かった1人の少女をなんとか守り抜こうとする、
かつて我が子を亡くした過去を持つ男の奮闘劇を臨場感溢れる映像のなか描いてゆく。
確かに、中盤までは単なる追跡アクションでしかないし、
おそらく監督が目指したキューブリックに較べれば社会批判色も弱く、
そこに物足りなさを感じるという向きだってもしかしたらあるのかもしれない。
しかし、原作は読んだことないので確かなことは言えないけど、
無事に生まれた赤ん坊と少女が戦火のなかを逃げる迫力のクライマックスから察するに、
この映画のアイロニーは、身勝手な大人の世界の都合で子供が次々悲劇に巻き込まれ、
そして子供を亡くす親の涙が乾くことなくいつまでも愚行が繰り返されるこんな世界ならば、
人類からもはや“子供”という未来は奪われるべきなんじゃないか?ということなんだと思う。

言ってしまえば、映画のラストは単なる甘い理想主義なのかもしれないし、
人によっては子供を利用した安易なドラマツルギーに感じるのかもしれない。
だけどボクは戦火のなかで赤ん坊が力の限り、そして命の限り、
それこそ「生きたい」と叫んでいるかのような泣き声にほんの一瞬でも銃撃が止む展開に、
新宿歌舞伎町の小汚い劇場の片隅で、なんだかポロポロと涙が溢れて仕方がなかった。
なんだかんだと30過ぎて感傷的なオジンになってゆく自分をどこかで自虐しながら……。

テロや内戦の恐怖を再現したシーンを含め映像には深みとインパクトがあり、
シリアスな展開のなかにもスッと空気を抜く“外し”のセンスがキラリと光る。
子供を失い一度は人生に絶望した男が酒に溺れて未来を懐疑しながらも、
“何か”にすがるように天から降って湧いた使命に殉じて絶命するという、
まるでペキンパーを彷彿とさせる男泣きのメキシコ・テイストも大いに琴線に触れる傑作……。



そう言えば、劇中でテオを援助するマリファナ好きの厭世老人が、
「シャンティ シャンティ」と何度か口にするんだけど、
それはインドの言葉で日本語で言えば「ドンマイ ドンマイ」、
「気にしない気にしない。なんとかなるサ…」
という意味だったと記憶しているんだけれど、違ったかもしれない……。

トゥモロー・ワールド。明日なんてもう、ないのかもしれない。
輝ける未来なんて、絵空事にさえならないのかもしれない。
しかし絶望ばかりしてたって、何かが始まるワケじゃない。
生きていればまた「生まれてよかった」と思える夜もあるサとささやかに願いながら、
今日一日、明日一日と、なんとか生き永らえてゆくしかない……。
「シャンティ シャンティ」と、今日一日、明日一日とつぶやきながら……。

シャンティ シャンティ シャンティ シャンティ
シャンティ シャンティ シャンティ シャンティ……。



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