無責任な快楽の果てには地獄が待っている! 『ホステル』!

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“ホステル”は、
世界の至るところに存在する―かもしれない。
国内にいる日本人が知らないというだけで、
実は海外で行方知れずになったままの日本人の数はそんなに少なくはない。
各国の大使館へ行けば(ボクは、アジアと東欧くらいしか知らないけれど)、
掲示板にはたいてい行方不明者に関する情報を求める旨の貼り紙がしてあるし、
街中にある旅行者がよく集まる安ホテルのフロントなどにも、
“missing(行方不明)”と書かれた紙が無造作に、
それはさも日常茶飯事とばかりに貼られていたりする。
だけど、誰もいちいちそんな紙を気に留めたりなんかしない。
自分にはまるで関係のないこととばかり、即物的な刺激を求めてみな心を浮き立たせている。
でも、行方不明になった人だって最初はきっとそんな感じだったハズだ。
自分が海外で、災難や事故に巻き込まれるワケはない―と……。

海外旅行ほど手軽に、そして即物的に冒険心を充たしてくれるものはないし、
その手軽な充足感がさらなる刺激を求めてエスカレートすると、
今度は手軽に“危険”を楽しんでみたいという心境に到達する。
その“危険”を安価に与えてくれるものが何かと言えば、それはたいてい麻薬だ。
東南アジアやインド、パキスタンあたりに行けば、
マリファナやハシシなんてそれこそ酒やタバコを嗜むよりも簡単に吸えるし、
端からそれだけを目的に旅に出て、
そしてそんな自分を“カッコいぃ”とさえ思っている20歳前後の旅行者だってかなりいる。
しかし、なんの確証もなくこんなことを書くのは無責任極まりないことじゃあるけれど、
海外で行方不明になる原因の多くは麻薬が絡んだなんらかの犯罪に巻き込まれたか、
もしくはそれに加えて男なら女がらみ、女なら男がらみ、というのがほとんどじゃないかと思う。

安価な冒険を求めるのもそれはそれでけっこうだしそれが旅の醍醐味とも思うけど、しかし、
無責任な欲望を充たさんとした果てにはヘタすれば“地獄”という代償が待っていることも、
少なくとも手軽な“危険”を求めて海外へ行くつもりなら相応の自戒として心得るべきだ。
こうしてのん気に毎日映画ばかり観ているけれど、同じく若気の至りと海外へ飛び出して、
“痛く”はなかったけどそれなりにマヌケな目に遭っている人間が語るんだから間違いない。
「自分には関係ない」「自分は大丈夫」と根拠のなぃ自信に充ちているヤツほど危なぃんだ。



その、あまりに凄惨な残酷描写でかねてよりホラー・ファンの間で大きな話題になりながらも、
「残酷すぎる」と公開が危ぶまれ、しかしこの度、ついに解禁と相なった、
『キャビン・フィーバー』 のイーライ・ロス監督のスプラッター最新作、『ホステル』 は、
確かに、超がいくつ付いても足りないほどに強烈で、
観るにはかなりの覚悟を必要とする本年屈指の問題作だけど、
しかし、いざ一度観てみれば、単なる残酷ショーというだけには留まらず、
オーソドックスなくらい“娯楽映画”の基本に忠実で、
しかも上述したように、“無責任な快楽の果てには地獄が待っている”という、
宗教的な教訓さえ含んだ、至極“正統派”のエンターテインメント・ホラーの大傑作だ!
このテが端から苦手という人にはとてもじゃないけどススメることはできないが、
しかし「面白い映画」がわかる人なら必ず満足できる究極の面白さに仕上がっている。

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 アメリカ人大学生のジョシュ(デレク・リチャードソン)とパクストン(ジェイ・ヘルナンデス)は、
 バックパックを背負ってヨーロッパを旅していた。目的はズバリ、女。
 滞在していたアムステルダムで、スロバキアのブラティスラバに行けば、
 男が求める快楽をすべて充たしてくれる夢のようなホステルがあるとの噂を聞いた彼らは、
 さっそく旅先で仲間になったオリー(エイゾール・グジョンソン)と3人で、
 ホステルのある町へと向かうのだったが……。

映画の前半は、とにかく下半身の刹那の欲求を充たすことだけが目的の若者たちを描いた、
それこそ、『アメリカン・パイ』 のように気楽でおバカな青春コメディで、
ボクは残念ながら行ったことがないんだけど、
ヨーロッパで究極の快楽を求めるならアムステルダムと、
確かに多くの旅行者が言うようにジョシュとパクストンもそれに倣い、
旅先で知り合ったアイスランド人のオリーも加えて、
ナンパをしまくり、ハッパを吸いまくり、女を買いに出かけて、
奔放、無責任なマリファナ&セックス旅行に明け暮れる。
女を買いに出かけた酒池肉林の売春宿の形態が、
後に自分たちが捕えられる“ホステル”の形態を暗示しているとは露とも知らずに。
ある晩、3人は、宿で知り合った見るからにジャンキーな旅行者に、
アムスよりもっとエロエロな男の桃源郷がスロバキアのブラティスラバにあると教えられ、
その様子をデジカメで見せられ生唾をゴクリ、一も二もなくその地を目指して列車に飛び乗る。

やがて3人が訪れる、東欧のくすんだ雰囲気がとにかく白眉で、
否が応にも3人を待ち受ける地獄を想像させてそれだけでもゾクリと鳥肌が立つ。
(ちなみに、実際の撮影の中心地となったのはスロバキアのブラティスラバじゃなく、
 お隣チェコのプラハから200㌔にあるチェスキー・クルムロフというチェコ随一の観光地。
 映画の印象とは違ってロマンチック、とても風光明媚な品のある可愛い町で、
 逗留するにも心地好く、ボクは一週間ぐらい町中の小さなホステルに滞在した…)
確かにアムスのジャンキーが教えてくれたとおり、
そのブラティスラバのホステルはあらゆる誘惑が待ち構え、
そして、すべての快楽を許容してくれる桃源郷のような場所だった。
奔放な巨乳美女と戯れ酒池肉林を味わい、まさにこの世の天国を謳歌する3人。
ここまで観ている分には「俺も行きてぇー」と男なら誰でも思うように見せてくれてそこが巧く、
この“天国”の描写が巧いからこそ後から始まる地獄とのギャップが功を奏し、映画は締まる。

そしてオリーがホステルで知り合った日本人の女のコとともに突然姿を消し、
街を覆う澱んだ空気がジョシュとパクストンにとってまるで牢獄のような雰囲気を醸し始めて、
ついに凄惨な拷問ショーの幕は切って落とされる。
血飛沫ドバドバ、内臓ドロドロの80年代系スプラッターの体というよりも、
本作がホラーの主眼として置くのはなにより全身にまとわりつくかのような“生理的不快感”。
そして、戦略的に観る者の神経を逆なでするようなスナップの利いた残酷描写は、
“悪夢の疑似体験”という目もくらむばかりの究極の映画的酩酊感を味わわせてくれる。

映画はやがて、運よく一時の難を逃れたパクストンの緊迫脱出スリラーへ、
そして壮絶な復讐劇へと疾走感も満点に様相を変えてゆくが、
後半でもまた醒めない悪夢にうなされるような息苦しさは延々とつづき、
それからはもう一瞬たりともスクリーンから目を逸らすことはできず、
映画は怒涛のカタルシスの濁流のなかへと観客もろとも突っ込んでゆく……。

『セブン』 よりも生理的に不快で、『八仙飯店之人肉饅頭』 よりも血と肉塊が転がり、
『ミッドナイト・エクスプレス』 よりもスリリングで、『脱出』 よりも痛快。
シンプルなくらい娯楽映画のツボをググッと押さえて、
隅々まで計算され尽くした93分ノンストップの暴力エンターテインメントのこれはまさに極北。
なにより安価なCGには頼らず手作り感にこだわったロス監督以下スタッフ陣の本気度は、
本格派の手応えを感じさせてくれどんな生半可なエンターテイメントをも寄せ付けない。
単純に残酷ショーを見せるという目的だけでこれほどの映画は作れないのである。

ホラー映画の最大の目的は、単純明快、観客に対し“恐怖”を視覚疑似体験させること。
そして人間にとってその“恐怖”には何が含まれているかと言えばそれは「教訓」だ。
“恐怖”と言っても広義と狭義、いろいろあるけどとりあえず人間は“恐怖”によって世を学ぶ。
極論すれば、“恐怖”という情動があって初めて人間は世の中を生き抜く力を得るのである。
ホラー映画は、その“恐怖”という情動に対し直接訴えるエンターテインメントであると同時に、
人生上の多くの「教訓」をも含んだ最も無害で安全な“教育装置”と言うこともできるのである。
猟奇犯罪が起きればすぐに「ホラーが悪い」とかヌカすバカな大人なんて信じてはいけない!
ホラー映画は至極真っ当に人間の感情を昇華させ感性を研ぎ磨かせる健全な娯楽なのだ!

とにかく、
見せるべきを絶対に隠さずに徹底的に“恐怖”を体感させその果てに無上の快感を約束する、
極めてオーソドックスでストレートな“正統派”のエンターテインメント・ホラーの王道ド真ん中!
『ホステル』!

本物の娯楽映画のカタルシスは、勇気ある者だけに与えられる! 目を背けてちゃいけない!

襟を正して、観るがいい。



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