それでもボクは…テロリストじゃない 『グアンタナモ、僕達が見た真実』

画像

『ホテル・ルワンダ』 以降の流れなのか、
ここ最近、目立ってアフリカの政治的事件を題材にした映画が増えているけれど、
期を同じくしてアメリカ政府は、来年9月までに、
これまでイラクを担当する軍などが分担して管轄してきたアフリカに、
新しくアフリカ軍を創設する方針を示したという……。
ウガちすぎなのを承知で妙な符号だけど、しかし、ハリウッド映画は元々、
イスラエルは善でパレスチナは悪という、そのプロパガンダ的機能を果たしてきた経緯もある。
迷走しまくりのアメリカの軍事戦略が今後はアフリカにも集中しそうな傾向と同様に、
おそらくアフリカを舞台にした映画がこの先ますます増えてゆくような気がしないでもない。

イラクの駐留米軍に充てる経費がいくらだか知らないが上乗せされることも決定し、
なんでもベトナム戦争に費やした金額を超えると最近のニュースでも伝えられていたけれど、
いよいよ歯止めの効かない支持率低下に居直ったブッシュ政権が、
最後の最後まで“対テロ”一辺倒で押し切る腹を決めたようであー怖ろしい。

さすがに“9.11”で大きな傷を負ったアメリカ自身も、
それ以降のイラク戦争はじめ政府の対テロ政策は間違いだったと思い直し、
しかし時遅くして今やイラクは周知の通り慢性的な戦争状態で、
前述のアフリカ戦略も、国民の目を逸らすための方策の一環のような気がするんだけど、
そんな中、昨年のベルリン映画祭で絶賛され監督賞を受賞し、
現在、日本でも公開されているイギリスの俊英監督、
マイケル・ウィンターボトムの最新作、『グアンタナモ、僕達が見た真実』 は、
そんな“9.11”直後、米軍が侵攻したアフガニスタンで戦闘に巻き込まれ、
どころか、国際テロリストの濡れ衣を着せられた上に米軍に拘束され、
キューバの米軍基地“グアンタナモ”へと送還されたパキスタン系イギリス人の青年たちが、
2年以上もそこで非人道的な扱いや屈辱的な拷問を受けて、
そしてようやく解放に至るまでの絶望的かつ壮絶で苛酷な日々を、
青年たち本人の証言を交えてリアルに再現した衝撃のドキュ・ドラマだ。

画像

イギリスはバーミンガム近くの町ティプトンで暮らしていたアシフ(アルファーン・ウスマーン)は、
2001年9月、両親が取り持った結婚式を挙げるために故郷のパキスタンへと向かい、
そしてイギリスに住む同じくパキスタン系イギリス人の友人3人を招待する。
パキスタンで合流した彼らは、しかし同時多発テロを受けた米軍の侵攻によって、
アフガンが悲惨な状況になっていることを耳にし、それを確かめるべく越境。
ところが前述の通り、米軍にテロリストとして拘束されるハメに……。

映画は、アシフたち本人の証言を随所に挟み込みながら、
ドラマ部分では彼らに似た俳優を使って証言をリアルに再現、
観客が主観に陥らないように、TVドキュメント的な距離感と、
映画的ダイナミズムとのバランスを巧く図りながら、今ここにあらためて、
ブッシュ政権と一時はそれに加担したイギリスのブレア政権が犯した過ちを告発する。

“9.11ヒステリー”に駆られて暴走する米軍に毎日飽くことなく酷い扱いを受け続け、
やがて神経を磨耗させてゆく主人公たちの姿はまさにインファナル・アフェア的無間地獄。
どんなに「テロリストなんかじゃない」と否定してもあらぬ証拠を突き付けられ、
アイデンティティーを見失いそうになるその様子は9.11が呼んだ“それでもボクはやってない”。
だけど、実際にそういう信じられないような体験を経て、
しかし今は元気に暮らしている若者たちの物語だと観客はあらかじめ知っているため、
終始、彼らのたどった経緯を落ち着いて追体験する余白がこの映画には用意されており、
よって、あらためてテロ以降の世界の“歪み”にコチラはそれぞれ思いを馳せることができる。
『ユナイテッド93』 のように高圧的な見せ方で、
イタズラに作者の主観を押し付けてくるようなマネは冒さない。

特別好きな監督というワケじゃないのにウィンターボトムの映画はなぜか追い続けていて、
しかし 『バタフライ・キス』 や 『ゴー・ナウ』 『CODE46』 など私的な作風の映画は巧いのに、
『ウェルカム・トゥ・サラエボ』 や 『イン・ディス・ワールド』 のように少しでもレンジが広がると、
途端に空廻りを起こすという印象をこの監督には受けていたけれど、
本作では共同監督もいるせいか焦点が絞られていて最後まで軸はブレず、
それこそ 『それでも~』 のようにメッセージ性含めその印象はかつてなく力強い。
そして、巨大な政治的題材の向こうにやがて見えてくるのは、
『それでも~』、あるいは 『めぐみ―引き裂かれた家族の30年』 と同じく、
この世の歪み―理不尽に一個人が抵抗することの壮絶な困難と絶対的恐怖……。

映画のラストで語られる、アシフ本人のセリフ―、
「この経験で人生観が変わった。この世はいい所じゃない。だけど、今は前向きに生きている」
という言葉が印象深く、安易に感動したなどとは言えない重い余韻を残してもくれるけど、
しかし、同時にそれは、『めぐみ』 のように政治的題材を遥かに超えて、
観る者に理不尽で歪んだこの世界に立ち向かう確かな勇気も示してくれる……。

シャンテ・シネ(日比谷) にて公開中 ]

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0