ギドク、漢江の怪物 『鰐 ~ワニ~』

かれこれ1ヵ月ぐらい前の話なんだけど、
「アチキの毎日」というブログの管理人・なおさんと、
新宿の南口周辺でボクにとって何度目かになるオフ会をした。
なおさんが管理されているブログはいわゆる映画ブログじゃないものの、
それでもネット上の付き合いは早2年近くにも及ぶので時の経つのは本当に早い。

なおさんは文章に関わる仕事をされている方で、そうした方に、
「句読点の打ち方が巧い」と言われたのがとてもうれしく完全に調子に乗った。
こんな拙文でも、ボクが書く際に最も気を配っているのは表現以上に文章のリズム感なので、
そこを“文章を見るプロ”に評価されればボクもなかなか立派なモンである。
(こうしてたまには自分をアゲてあげなきゃこんな人生やってられねぇ)

しかし人間、大なり小なりなんでも何か、ひとつのことを“つづける”ことは大切で、
最初はどれほどヘタでも地道にコツコツつづけていれば誰でもそれなり上達するもの。
継続はナントカとはよく言ったモンでブログなんゾもうやめたいと思うこともしばしばだけど、
こんなボクの文章でも、始めた頃よりは少しはマシに読めるものになったのかもしれない…?
誰でもできるブログ如きと比較しては世の作家たちに対しまったく失礼な話じゃあるんだけど、
きっと“映画を撮る”ということに関してだって本質的には同じことが言えるんではなかろうか?



韓国映画界屈指の鬼才にして異端児、
生み出す映画のどれもが良くも悪くもセンセーショナルで、
日本でも一部評価が高く、とくに若いシネフィル中心に圧倒的な人気を誇る、
という印象のワリには新作が封切られてもさほど客が入らず、
実のところ人気があるんだかないんだかイマイチよくわからない、
しかしそんなとこもまた魅力と言えなくもないキム・ギドク幻の長篇処女作 『鰐 ~ワニ~』 は、
ド荒々しい作風の中にもダイヤの原石のような鈍い魅力を内包すると同時に、
ギドクが作家としてどれぐらい進化しているかその過程もうかがわせてくれる。

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 “ワニ”とあだ名される浮浪者・ヨンペ(チョ・ジェヒョン)は、
 漢江に架かる橋の下で、川に投身自殺した人間を引き揚げ、
 その金品をかすめ取るという行為を繰り返しながら生活していた。
 ある日、川に身を投げたヒョンジョン(ウ・ユンギョン)を助けたヨンペは彼女を強姦する。
 同じ橋の下で暮らす老人(チョ・ムソン)と孤児の少年(アン・ジェフン)は、
 あまりに卑劣なヨンペからヒョンジョンのことを守ろうとし、
 ヨンペもいつしかヒョンジョンに対し人間的な愛情を感じ始めるのだが……。

随所にギドクらしい、アーティスティックな印象を鮮烈に残す、
『魚と寝る女』 と 『悪い男』 と 『うつせみ』 を足したような映画。
漢江(ハンガン)の橋の下で繰り広げられる浮浪者たちの生活は、
主人公ヨンペの卑劣極まりない行為がありつつもどこか不思議と温かく、
それはまるで戦後日本の姿を見ているかのような印象で物語に惹き込まれる。
そんな作風にうかがえるのは、その後のギドクの作品すべてに共通する、
社会に適合できずドロップアウトした人間へのやさしい眼差し……。

その内容は確かに過分に反道徳的かつ反逆的とは言え、
しかし洗練とは遥かにほど遠い野暮ったく荒削りな印象は、
間違いなく10年前の韓国映画のテイストにも見事に重なる。
キム・ギドクは、確かに苛酷な歴史に根差した韓国映画が生んだ種だった。
だからこそ、ギドク映画の、内へと向かうような時に凄まじい暴力衝動は、
そのまま韓国社会に対する反抗として実をなし時に物議も醸してきた。

昨年、韓国で大ヒットした 『グエムル 漢江の怪物』 を揶揄したことで、
一時は韓国映画界を引退するとまで発言し話題を呼んだギドクだけど、
なんのことはないこの漢江のほとりが舞台の映画を観ればわかる通り、
10年前、すでにギドクこそ韓国映画にとって“漢江の怪物”だったのだ!

おそらく本作を観ようという人は同時にギドク映画を観続けているとも思うので、
それを考慮すれば“衝撃の処女作”と気を持たせたワリには…という感じだし、
物語はこれもまた過分にギドクらしく(?)暴走と破綻をめいいっぱい繰り返し、
後につづく強烈な作品群に比してさほどインパクトが強いワケじゃないけれど、
粗野で、破滅的で、しかしとても映画的なこのギドクの処女作ズバリ、面白い。

“人気作家の処女作”というプレミア以上に映画としてのゴツゴツした感触にこそ心惹かれる、

『鰐』 はそんな傑作だ。そして、



なおさんとはオフ会当日、アフリカ料理を食べに行ったんだけど、
そこで選び、意外にも鶏肉のようで美味しく食べやすかったのが、
そう、この映画のタイトル、ワニ”の唐揚げ、だったのだ・・・。

ユーロスペース(渋谷) にて5月18日(金)まで公開 ]