ロシアのサンボの裏技か? 『暗殺・リトビネンコ事件〈ケース〉』

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去る12月2日に行われたロシアの下院(ドゥーマ)選挙。
来年3月の大統領選へと向けた前哨戦的な選挙で、事実上、
現プーチン政権の信任投票的な意味合いが大きかったようだけど、
結果はニュースの通り、プーチン率いる与党「統一ロシア」の圧勝だった。
今や経済成長著しくて前にTVを見ていると、地方が絶望している日本とは違い、
ロクに電気も来てないようなド田舎の年寄りにまで「今にロシアはアメリカを抜く」と、
期待を抱かせるプーチンなのでコチラは「ふ~ん」と納得するよりほかないワケだけど、
しかし、与党に批判的な野党が議席を獲得しにくくなるような選挙制度に改正したり、
選挙戦でも野党の選挙活動を与党の力で抑えに抑え込んだなんて話を耳にすると、
国内外でカタチは変われど“独裁国家”と批難されたって仕方ないように思えるし、
そこであの薄ら冷たそうなプーチンの鉄面皮を思い浮かべるとなんかゾッとして、
劇中で語られるロシアの“裏の顔”にも説得力が増し「ロシアって怖いな…」と思う。
いかに本作、『暗殺・リトビネンコ事件〈ケース〉』 が真実のドキュメンタリーだとしても、
鼻息荒いプーチンには痛くも痒くもないような気さえしてそれがなにより恐怖を煽る……。

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2006年11月23日、イギリスへ亡命中だった元FSB(ロシア連邦保安庁)中佐、
アレクサンドル・リトビネンコが、何者かの手によって暗殺された。死因は、
放射性物質・ポロニウム210を大量に呑まされたことによる毒殺だった。
彼は、1998年に同僚らとともにFSBの腐敗を告発したことで政治的弾圧を受けるようになり、
その後、2000年にトルコ経由でイギリスに亡命して、2002年にはその著書(共著)の中で、
1999年に、モスクワなどロシア国内の3都市で発生して300人にも近い犠牲者を出した、
ロシア高層アパート連続爆破事件は当時チェチェン独立派武装勢力のテロと目されたが、
実は第二次チェチェン侵攻の口実を得ようとしていたプーチンを権力の座に押し上げるため、
FSBが仕組んだ偽装テロだったと証言(リャザン事件)。また2003年には豪TV局に対し、
前年10月に起きた“モスクワ劇場占拠事件”の疑問点を指摘し犯行グループの内2名が、
FSBの工作員だったという可能性を指摘するなどプーチン政権を徹底的に批難し続けた―。

映画は、かつてタルコフスキーの助手をしていたというアンドレイ・ネクラーソフ監督が、
リトビネンコに接触し4年にわたって撮影していたインタビュー記録を元に構成されていて、
生前どころか、ベッドに臥している死の直前のリトビネンコの姿をも収められてあり衝撃的だ。
柔和な顔立ちとは逆に鋭い目をしたリトビネンコへのインタビュー映像はもちろんのこと、
同じくプーチン政権を批難し続けそして同じように何者かにより銃殺されたジャーナリスト、
アンナ・ポリトコフスカヤや、リトビネンコの妻で現在もロンドン在住のマリーナ・リトビネンコ、
またはリトビネンコを支援していた政商ベレゾフスキーなどの証言にニュース映像を併せ、
なぜ、リトビネンコが殺されなければならなかったのか?その疑問へと迫ってゆく……。
なまじ映画以上にサスペンスフルな内容はそれがすべて真実なら驚くような話ばかりで、
のん気に映画なんか観ていていいのか?と不安になるような凄味が画面には漂っている。
当然ロシアでは上映禁止で、映画の存在自体も半ば黙殺されているような雰囲気だという。

しかし、理由はわからないけど、それがややドキュメントにしてはドラマチックな構成ゆえか、
その内容の数々はあまりに現実離れしすぎで観客に対し題材との距離感を与えてしまい、
または日々リアルタイムで流れてくる世界中の衝撃的な映像に頭が鈍磨しているからか、
どこかで対岸の火事的認識をしてしまい内容がすぐ隣の恐怖としてまで伝わってこなかった。
監督本人がヤケに神妙な顔で(しかしヤケにカッコよく)頻繁に顔を出すのもどうかと思ったし、
なにより事件のショック性がすでに日本国内じゃメディアにより消費し尽くされた感じがあり、
本当はお隣さんなんだけど日本人にとって“近くて遠い国”というロシアの印象とも相まって、
残念ながら、安穏とした国に住む日本人を惹きつけるには題材が地味すぎた気が否めない。
題材が題材だけに、そしてロシア映画だけにすべてが生真面目で堅くて重苦しいんだけど、
しかしそこは事件をよく知らない観客にも観やすくなるようなアプローチも必要だったと思う。
(とは言え、ボクとて事前に予備知識を仕入れなかったのでそこは反省すべき点なんだけど…)

しかし、さすがに暗殺とまではいかないにしても、政府が政権を維持するために、
国民の目をまんまと欺くぐらいはどこの国でもよくある話。当然、この日本とて然り。
ボクを含め日本人は人が好いからたとえば年金問題にしても薬害訴訟問題にしても、
メディアが囃し立てでもしない限り政府の動向に目を向けたりしないけど、それじゃイケない。
『暗殺・リトビネンコ事件』 は、題材を超えて“懐疑の目を持て”と我々に警告しているのだ。
どれだけ支持はしても、信じすぎない―。その緊張感だけが最後に自分を守ってくれると。
「今にロシアはアメリカを抜く」と語っていたあの老人の期待はいつか叶うのだろうか…?

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