イオセリアーニ流ドロップアウトのススメ? 『ここに幸あり』

画像

仕事柄、サラリーマンと接する機会が多いんだけど、
締めてるネクタイはキツそーで、そのクセ袖はヨレヨレで、
元気な人もいるが、たいがい疲れた表情に一律覇気はなく、
なにより、ボクよりあるだろうけど誰も金がなさげなことこの上ない。とは言え、
ボクも一度はサラリーマンという日本の平均的な労働形態を経験したので、
その心労と肉体的疲労は多少なりとも理解できるし、理解できればこそ、
そこへ戻るのが最善とは思いながら今日までその選択肢はあえて無視してきた。

サラリーマンの何が嫌だったって(まァサラリーマンに限った話ではないけど)、
とにかく、朝いちばんの社内に渦巻くあの無駄にバタバタとした慌しい雰囲気だ。
そんなに慌てるなら昨日の内に段取りしたらと思いつつもそれが社会のリズムだし、
周囲の人間にそう舌打ちしつつしかし周りに合わせている自分にもムカついたりだとか。
オカゲで今はとりあえず、朝、職場に出かけてタイムカードをガチャンと押したらマズは、
コーヒーブレイクから始まって、出勤の疲れを癒す。すぐに仕事なんか始めたりしない。
1人親方をいいことに、最初の1時間目の時給なんかは“出勤手当”だと思っている。

10代の頃は世の中バブル華盛りで、TVじゃ常に「24時間戦えますか」とか煽っており、
明日の見えない苛酷な受験戦争の真っ只中で、ゼーゼー必死にホフク前進しながら、
なんとなくはそうした24時間戦う猛烈なサラリーマン像がカッコよく感じる時もあった。
平成大不況からようやく脱け出て世の中は景気が上向きなんて一部でまた煽り始め、
それに合わせたのか一時、あのCMが復活していたような気がしたんだけど、今どきさ、
24時間戦いたいなんてそんな奇特な人いるのかしら? ボクにすりゃアホの戯言である。

とか言いながら、ボクはそうして出勤したら次の日の朝までほぼ24時間勤務なので、
純勤務時間だけ見ればそこらの暇なサラリーマンなんかよりよっぽど働いているし、
仕事明けは本当にグッタリで、あまりに疲れすぎて寝ても寝ても眠気が取れずに、
せっかく予定していた映画鑑賞も「まァいいか」と中止して寝続けることもしばしばで、
これじゃいったいなんのために働いているんだか…と無性にやるせなくなる時がある。
まぁそれもこれも、今はやや明確ではないにせよ金を貯める目的があるのでどーにか。
だから仕事内容そのものは、穴を開けて落とさない程度に手を抜ける限り抜きまくるし、
職場のパソコンだってフル活用してこのブログだってほぼ勤務中に書いている。ワ~イ。

とにかく、蟻みたいに勤勉な日本人は老いから若きからみんな一律お疲れサンで、
盆暮れGWのたまの長休みと言ったってせいぜいが1週間とか取れて10日間程度、
しかも芋でも洗いに行くかの如くなぜかみんな一斉に揃って同じ場所へ出かけるし、
男も疲れ切ってりゃ、女性は女性で日々の情報を追いかけるために頭に鉢巻き締めて、
化粧だけで疲れないかと、そりゃ電車の中で化粧もしたくなるワなぁと、チョッピリ思ったり。

だから相変わらず、頭に「癒し」だの「ヒーリング」だの付けた商売はケッコウな人気で、
ボクもたまには温泉でも行ってアロママッサージでも受けてすべての煩悩を捨て去って、
と思うんだけど、何をやるにしても日本は金がかかりすぎるのがまたタルいんだよなァ~。
そんなワケで、映画好きならやっぱり安く映画でも観てのんびりするほかないのか…と、
しかしそんな気分の時にピッタリなのが、『素敵な歌と舟はゆく』、『月曜日に乾杯!』 の、
コーカサスはグルジア出身の名匠オタール・イオセリアーニ監督最新作 『ここに幸あり』 だ。
タイトルだけ見たら、いかにも癒しを狙った 『めがね』 系のあざとさを感じるけれど、
そこはさすがにヨーロッパ。食と余暇を大切にする本来の豊かな文化が根付いていて、
癒されるのはもちろんのこと、それ以上に羨ましいなァ~と指をくわえる感じの佳作だった。

画像

見るからにしょーもないヴァンサン(セヴラン・ブランシェ)はある日突然大臣の職を追われ、
ついでに金も失い、愛人や元妻には愛想尽かされ、オマケに住む家までなくなってしまう。
だけど、何もかもイッペンに失くした代わりになんでもやれる自由な時間を手に入れた彼は、
昔住んでいた場所へ帰り、懐かしい友人たちと酒を酌み交わし、歌を歌い、音楽を奏で、
そして金や地位など関係なく接してくれる心優しい様々な女性たちと出逢いを重ねながら、
思わぬキッカケで訪れた“人生の休暇”に心癒され、見失っていた何かに気づいてゆく……。

そういう、言えばこれといった大きな起伏があるワケでもない物語が、
ペースを速めることもなくまた遅くすることもなく一定のリズムで進むだけ。
人によったら一見タラタラとした雰囲気にイライラを募らせるかもしれないけど、
一旦流れに乗ってしまえばそのほど好いタルさが病み付きになるのがイオセリアーニ節だ。
まァ上げ膳据え膳で笑いや涙や感動がないと映画を観た気にならないなんて贅沢な人は、
最初からこのテの映画には向いてなんていないので三丁目で夕日でも観てるがよろしい。

人生に本当に大切なモノは何か?なんて人生の価値観を問うている作品なんていうと、
本当に 『めがね』 を連想して鼻白むがイオセリアーニ映画にあんな押し付けは皆無だし、
ヨーロッパの路地裏へ行けばどこにもいて酒呑んでそうなオッサンたち的キャスティングと、
そこは名匠たる所以の華麗なパスワークのようにエピソードをつなげてゆく流麗な演出で、
私欲や体裁に縛られない粋な人生の楽しみ方というものを味わい深く教えてくれる……。

まァ日本人は心配性のA型が多く農耕民族で雨が降らなきゃ不安で夜も眠れない的気質で、
たとえば団塊世代の第二の人生を狙って投資系のCMばかりが流れているような国だから、
ハッキリ言ってこの映画のような人生観は向いてないしマネしたくてもできないんだと思う。
だいたい本作の上映館自体が上映中は水も呑んじゃダメなどという堅っ苦しい劇場だしね。
マネをしようと思えばそれはつまり世間に居場所を失くすという意味で日本人て辛いなァ~。
だけど、やっぱりこのイオセリアーニ映画に流れるゆったり豊かな映画的時間は気分好いし、
せめて観るなら次の日は完全にオフという日の晩にするのが効果もテキ面じゃなかろうか?
で、明日からまた仕事という日の晩にDVDで 『月曜日に乾杯!』 を観れば……、
もう仕事なんかやめて本当にそのままドロップアウトしたくなるかもヨ?

恵比寿ガーデンシネマ にて公開中 ]

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0