やっぱりゾンビが走るけどホラー映画の寄鍋感覚で快作! 『スリザー』!

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本作でめでたく(?)長篇監督デビューを果たした、
脚本家ジェイムズ・ガンによるホラー映画不朽の名作、
ロメロの 『ゾンビ』 のリメイク 『ドーン・オブ・ザ・デッド』 に、
世界中のホラー映画ファンが何を度肝抜かれたかと言えば、それは、
「あの 『ゾンビ』 がついに時代を超えてリメイクされた!」ということよりも、
「ゾンビが走った!」という言わば禁じ手を打ってしまったことに対してだった。
しかも今年の世界陸上のタイソン・ゲイに負けないぐらいの全力疾走で…である。

それはもう喩えは古いけど長州力が一度目の引退試合でライガーにプランチャーした時の、
「長州が飛んだ!」というドヨメキに匹敵するぐらいの、いや、最晩年のジャイアント馬場が、
もし仮に32文ロケット砲、つまりドロップキックを決めたなら…と同じくらいの衝撃で(か?)、
スクリーンを前にボクは…ただ…(横から小さく「頭が真っ白になった、頭が真っ白になった」)、
慣れてないから頭が真っ白になって、ヨタヨタ、ノロノロと歩かなきゃゾンビじゃない!と、
ゾンビな上にあんな全力疾走されたらなんでもアリじゃん!?と呆れたモンだった―。

まぁ、あの映画自体は、監督が最近の 『300』 のザック・スナイダーということで、
個人的には好きじゃないがソコソコの見せ場と迫力のある作品だったとは思うけど、
やっぱりあの“ゾンビが走る”というのは現場の演出というより脚本家の発想なのか?
そんなジェイムズ・ガンの初長篇映画 『スリザー』(ズルッと滑って…みたいな意)においても、
宇宙からやって来た未確認生命体に寄生されてなぜかゾンビになってしまう人間たちが、
ヨタヨタ歩いていたかと思えば、随所で小廻りの効いた走りを見せるという描写があり、
もう“走るゾンビ”というのは商品登録した方がいいんじゃないかと思ったなんてのはウソ。
とにかくこの 『スリザー』 は、おそらくジェイムズ・ガンという人の原点らしき(ボクより2コ上)、
70~80年代の迷作・傑作問わないホラー映画のエッセンスを詰められる限りに詰め込んだ、
アツアツの寄鍋感覚で冬にはポカポカ体も温まる観応え満点の快作で面白かった…って話。

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 アメリカ南西部の田舎町に、ある日謎の宇宙生命体が潜む隕石が落下し、
 たまたまそこを通りかかった町の有力者グラント(マイケル・ルーカー)の体に、
 隕石から飛び出した何かが突き刺さる。そして、隕石が落下した日を境にして、
 町では行方不明者が続出し始め、ペットの失踪も相次ぐようになり、
 警察署長のビル・パーディ(ネイサン・フィリオン)が捜査を進める一方、
 やがてグラントの体にはある怖ろしい異変が起き始めるのだった……。

と、粗筋なんて案の定、あってないようなモンで映画はとにかく既存のホラーの寄鍋状態。
それこそ 『ゾンビ』 に 『バタリアン』 にジョン・カーペンターの傑作 『遊星からの物体Ⅹ』、
デヴィッド・クローネンバーグの 『ブルード/怒りのメタファー』 に 『ラビッド』 などなどと、
詳しい人はもっとスラスラ思い付くと思うけど「コイツ、好きだなァ」という感じな詰め込み方の、
そして監督の経歴通り、Z級を狙ったトロマ・エンターテインメント的テイストが基本ベースで、
でも、そんなホラー映画に対する異常な愛情が空廻りすることなく本作には凝縮感があり、
無駄に映像が洗練されていない分、質感自体が80年代ホラーみたいでとにかくうれしい限り。

なにより偉いと思うのは、CGをそれはふんだんに使用しながらもそれに拠りすぎることなく、
贅沢な予算(17億円!)の注げる限りをクリーチャー造形に注ぎ込むその手作り主義の潔さ。
ヌルヌル、モッチリした見た目の触感こそホラーの醍醐味とジェイムズ・ガンは熟知している。
パッと見は単なるフザケたグロ映画だけど、その職人精神は早“闘魂伝承”の域じゃないか?
貧乳だけどヤケにソソる、日本で言えば三浦理恵子タイプ(個人的に)のセクシー・ヒロインが、
見えそで見えないスリップ姿で血と粘液にまみれながら怪物と戦う姿も様式美として正しく、
ロメロ=ゾンビのような悲愴な終末感や緊迫感などいずれ出しようもないけれど、
その代わり絶妙なユーモアがそれこそ鍋の昆布だしのように随所に旨く効いていて、
それが決してマニアックな悪ノリに走ることなし要所要所で思わず吹き出してしまうほど。

なんかいろんな惑星を滅ぼしてきた怖ろしい宇宙生命体の地球侵略というワリには、
けっきょくアメリカのどこゾの田舎町で話がすんでしまうというスケールの小ささも素敵。
こういうB級ホラーを観ている時だけはアメリカっていい国だな~としみじみ思ってしまう。
抜群のコメディ・センスを見る限り、『ショーン・オブ・ザ・デッド』 を意識してる気がしたけれど、
中でも第2ヒロインの妹役の女の子2人が本当に楽しそうに自分なりのゾンビを演じていて、
それを見ていて「あ~俺もエキストラでいいからゾンビやりた~い」と心底思ってしまった。

とにかく、このアホ臭くも徹底した職人的娯楽イズムは、
たとえば昨年の 『スネーク・フライト』 にも匹敵する鉄板の面白さ。
頭から尻尾の先までアンコが詰まったような満足感のSFホラーの快作だ!

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