ボクの“東京サクラグランプリ”はこれだ! 「第22回東京国際映画祭」雑感

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いったい、いつからメイン会場が六本木に移ったのかさえ知らないというくらいだから、相当久しぶりなんだけど、
今年は「東京国際映画祭」に3日ほど通い7本の映画を観てきた。一応カンヌあたりと同規模の映画祭とはいえ、
スポンサー臭が強いばかりで毎年毎年盛り上がってんだか盛り上がっていないんだか今一つピンとこなければ、
いわゆる“レッドカーペット”(近年はエコを謳いグリーンカーペット)が内輪受けっぽく「なんだかなぁ~」って感じで、
それでなんとなく気にすることもないまま今までスルーしてきたという感じだったんだが、しかし、通えば通ったで、
選りすぐりか否かはともかく世界中から集められた映画を、アレやコレと悩みながら選んで観るのはやはり楽しく、
作品によってはチケットが完売といったものもあって何はともあれ映画館に人が集まるのはいいことじゃないかと、
ボクも行くからには積極的に楽しんだつもり。というワケで、観てきた映画について感想および雑感をチョットずつ。

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『イースタン・プレイ』

マズはコンペティション部門なんだけど、実はノミネート作品中イチバン観たいと思っていたのに観られなかった、
ブルガリア映画の 『イースタン・プレイ』 がグランプリほか3冠を制覇し(ちなみに現在の全日3冠王者は小島聡)、
無類のブルガリア好きとしては「しまった~!!」と砂を噛む思いで、ほかにもとある場所で評判を耳にしていた、
カナダの 『少年トロツキー』(観客賞受賞)やフィリピン映画の 『マニラ・スカイ』 もけっきょく観られなかったんだが、
そんな中果たしてボクが何を観たのかというと 『テン・ウィンターズ』 と 『ボリビア南方の地区にて』 という2作品。
ハッキリいって、2本とも大して面白くなかった(苦)。実は、今回の映画祭には「映画批評家プロジェクト」といって、
コンペ作品を鑑賞した上800~1500字の批評を書いて応募するという企画があり、ボクもブロガーの端くれとして、
タマにゃそういうことに挑戦してみようかと思ってたんだけどツマラなかった映画について800字も書くなんてムリ!

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イタリア&ロシアという合作としては珍しい 『テン~』 は、タイトル通り、冬のヴェネチアとレニングラードを舞台に、
ひと組の男女の出逢いからようやく結ばれるまでの付かず離れずな10年間の冬を描いたという作品なんだけど、
主演の2人は好演しているし、寒々しい空気を繊細に捉えた映像もなかなか沁みる感じで悪くないとは思いつつ、
しかしドラマ自体は極めて単調なエピソードの羅列にしか見えずようやく結ばれるといったってけっきょく不倫だし、
喩えば香港映画の 『ラヴソング』 みたいなカタルシスがなんにもなくて途中からもうどーでもよくなってしまったと。
それよりも! 上映後のティーチインで監督&プロデューサーが登壇したんだが、イタリア人の男性監督はともかく、
ロシア人の女性プロデューサーさんがま~実にえぇ女で、キワキワのドレス姿は、今にも胸元がこぼれんばかり!
ツマラなかったしトットと帰るべと一旦腰を上げたものの、ボクはチョコンと座り直し、最後まで行儀よく話を聞いた。

とまぁこんな感じで映画がチョットでも面白くないとなるとボクはすぐに話をソッチの方へと持っていってしまうから、
これじゃ批評など書けないし、だいたい前から2列目ぐらいしか席が空いていなかったためスクリーンが近すぎて、
映画をフカンで観ることがあまりできなかったというのも書けない理由(or言い訳)。ちなみにこれで何文字書いた?
そしてもう一方の作品、『ボリビア南方の地区にて』 は、とある大邸宅を舞台に繰り広げられる、富裕層の一家と、
先住民の使用人との人間模様を、基本ワンシーン&ワンショットで描いたという極めて挑戦的な作品だったんけど、
工夫を凝らしたカメラワークそのものは確かに面白いと思ったし、富裕一家のメッキが少しずつ剥がれてゆくという、
そんな展開も好みではあったものの、そのカメラワークが時に冗長さを生み映画がタルんでしまった印象も否めず、
できればボリビアにおける白人と先住民との関係にもっと深く切り込んだ社会派な作品にしてほしかったかなぁと。

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だけど、映画祭の楽しさといえばやっぱりなんといっても普段お目にかかれないような国の映画が観られるという、
その1点に尽きるとボクは思っていて、ボリビアも然りだけど今回はほかにエジプトとメキシコの映画も選んでみた。
エジプト映画といえば、やはり 『アレキサンドリア WHY?』(’78)などの故ユーセフ・シャヒーンが有名だと思うけど、
シャヒーン映画は1本も観られなかったから、代わりに観たのがその愛弟子が撮った 『正当なる背信』 という映画。
ある金持ちの男が、自分の兄貴と兄貴と不貞していた自分の嫁を射殺する。兄弟の間で本当は何があったのか?
その真相が3人の美女と主人公の関係を通したいわゆる“藪の中”方式で明かされてゆくといった内容なんだけど、
実はエジプト映画ってインド映画と似ていて、本作も、サスペンスあり、アクションありの見た目は豪華な娯楽映画。
語り口が異常に不親切で「は?」ってな部分も多かったんだけどそこが逆にスリリングで妙な後味の映画だったな。

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『正当なる背信』

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『ハポン』

一方、メキシコ映画の方は逆に完全な作家映画で、創った長篇3本の内の2本がカンヌのコンペに選ばれるくらい、
今最も注目を集めている1人だというカルロス・レイガダスって監督の処女作、『ハポン』(’02)がそれだったんだが、
話は自殺願望に取り憑かれた男が荒野を彷徨った挙句にある山村へと流れ着き、そこで1人の老婆と知り合って、
しだいに“生”と“性”への欲求を取り戻してゆくといった再生モノ。だけど、その 『桜桃の味』 のような話はともかく、
なるほど新鋭らしく尖った挑発的な作風と、メキシコの渇いた大地を切り取った映像がカッコいいとは思ったものの、
反面そこもまた新鋭らしいということか独り善がりもかなり目立ち、イニャリトゥ(今年のコンペ審査委員長)みたいな、
ナルシストなあたりも少々鼻について決して好きなタイプとは言えず、なにより“ハポン”とは日本のことなんだけど、
ティーチインで監督本人の話を聞いてもなぁ~んでタイトルを“日本”にしたのかボクにはまったく理解できなかった。


てな具合に以上の4本はいずれも★5つを満点とするなら★3つくらいでなかなかテンションが上がらないんだけど、
しかし特集「アジアの風」で観た残りの3本については、どれも観てよかったと心底思えるような傑作ばかりだった。
マズは、昨年の映画祭で大々的に特集が組まれ、というよりボクは特集自体を知らずに後で一生分の後悔をした、
知る人ゾ知るカルト映画 『下女』 などで知られる“韓国映画の怪物”キム・ギヨンの 『玄海灘は知っている』(’61)!
時は太平洋戦争真っ只中の1944年、名古屋の日本軍輸送部隊に朝鮮から学徒兵として入隊した朝鮮人青年の、
苛酷極まる日々と日本人女性との恋を描いた作品なんだけれど、これ、日本が舞台だからって日韓合作ではなく、
キャストからスタッフからオール韓国人。つまり、朝鮮人をイジめ倒す日本人も、日本人にイジめ倒される朝鮮人も、
等しく韓国人が演じているというある意味、究極の自虐とも受け取れるような映画なんだ。凄いでしょ? 凄いよネ?

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性格の悪い日本の軍人が、主人公の学徒兵に靴の底に着いたクソを舐めさせたり、日本人女性も最初の方じゃ、
「朝鮮人なんてイヤよっ!」とあからさまに差別発言を吐くなど、それをみんな向こうの役者が演じているんだから。
しかし日韓を超えた戦火の恋はあらゆる差別や偏見を超えて燃え上がり、ラストの大空襲じゃ女性の声が届いて、
瓦礫と死体の山から主人公はゾンビみたく立ち上がり彼女といずこともなく去ってゆく……。本当に凄ぇ1本だった。
2本目は、“マレーシア映画新潮”の旗印としてこれからの活躍がますます期待されていた中での今年7月25日に、
脳溢血でなんと51歳の若さで急逝してしまった、ヤスミン・アハマド監督の5作目に当たる映画 『ムアラフ―改心』。
アル中で身勝手な父親の元より逃げ出した姉妹を主人公に監督らしいウィットに富んだユーモアを散りばめながら、
絶妙な語り口で魂の安らぎと人を赦す心について描いた優しき傑作だ。本当に本当に監督の急逝は惜しすぎるよ。

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上映後には監督の妹さんであるオーキッド・アハマドさんを迎えたトークショーが開かれ、生前の監督との交流や、
次に日本を舞台に撮られるハズだった映画についてが語られたんだけど、このオーキッドさんがずっと泣き通しで、
コチラまで何度か涙ぐみそうになってしまい、しかし、そんな彼女の人柄もあってか、会場は終始温かい雰囲気で、
なんとも穏やかな時間を過ごせた。監督はきっと働くのが好きすぎて働きすぎに気づかなかったんだろうね。合掌。
そして、ようやっとたどり着いた最後の1本。というより、観た順番としてはこの映画をイチバン初めに観たんだけど、
いわゆるクルド問題をベースにした、壮大なスケールの大河ドラマ、トルコから届いた傑作、『私は太陽を見た』 は、
問題の根幹を通して、世界に遍在するあらゆる悲劇のなによりの原因、“他者を受け入れられない”ことの悲しさを、
万人の胸に沁みる普遍的な家族のドラマに乗せて描いたトルコ映画の潜在力にも驚くマコト素晴らしい1本だった!

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開巻いきなり、トルコ軍の軍用ヘリコプターが飛んできてクルド解放軍兵士たちが身を隠す洞窟を爆撃するという、
そんなド派手な場面で始まるのを観てもわかる通り、本作は、おそらく、ハリウッド娯楽映画の基本に倣いながら、
そこに巧くクルド問題を落とし込んで、今のトルコ映画にしか描きえない作品を目指した1本じゃないかと思われる。
クルド人でありながら、政府軍と解放軍との板挟みに遭い、仕方なく住み慣れた村を追われるある家族の物語は、
時にユーモアを交えながらも歴史の悲劇の背負って重々しく、イスタンブールに、またはノルウェーに展開してゆく。
そしてその中盤以降は、イスタンへ移った家族とノルウェーへ移った家族のその後が交互に綴られてゆくんだけど、
イスタンへ移った家族の中にゲイの青年がいることから映画はやがてセクシャリティ差別の問題にも言及し始めて、
要はクルド問題にいろんな差別の問題を重ねてゆくというそういう懐の深い寸法になっているのがこの映画なんだ。

おそらく創り手はどこか海外で映画を学んだという人ではないかと思うんだけど、とにかく硬質な社会派的要素と、
映画としての娯楽性とのバランス感覚が秀逸で、ユーモアはあるし、泣かせ方は巧いし、ロケーションも最高なら、
なにしろクルド問題を扱った映画でこれほど広く観る者に対し訴える映画なんて今までなかったんじゃなかろうか?
本当に席を立てないぐらい感動したし、これ、いつか岩波ホールで公開したら、絶対連日満席だと思うんだけどな!
…そんなワケで、久しぶりの東京国際映画祭で鑑賞した以上7作品! 本当の“東京サクラグランプリ”を受賞した、
『イースタン・プレイ』 を観逃したことが今も残念でならないんだけど、ボクのグランプリはこれ、『私は太陽を見た』!
そういえば、トルコとブルガリアってボクの大好きな国同士じゃない!(女性がキレイな上に巨乳の多い国だから!)
あ~ 『私は~』 なら批評も書けそうなのにな。とかいって、イイ映画を観ても、けっきょく最後は下ネタのクセに(照)。