コードネームはジョニー・デップ!と言いたいが? 『パブリック・エネミーズ』&『倫敦から来た男』

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先週末金土と、飯田橋にある東京日仏学院まで行ってきたんだけど、地上に出てから現地まで歩く距離よりも、
大江戸線の飯田橋駅を降りてから地上出口まで歩く方が、よっぽど距離があって少々辟易してしまったものの、
ともかく、シネフィルの人々にはもはやお馴染みと言える日仏学院も、ボクにとっては実は初めて出かける場所。
先月の「東京フィルメックス」から連動している、「コードネームはメルヴィル」という、フレンチ・ノワールの大巨匠、
ジャン=ピエール・メルヴィル(1917~73)の特集が開かれているモンだからそれを目当てに行ってきたんだけど、
敷地内に足を踏み入れた途端、どことなく漂うお上品な雰囲気に思わず居ずまいを正してしまったのはさておき、
ずっと以前からそうなのか定かではないが受付にお若いフランス人女性が座っているのにはチョイとびっくりした。
「何ヲ、観マスカ?」と訊かれるんだけど、なぜ外国人女性のカタコトの日本語ってあんなにキュンとするんだろう。

金曜は昼に出かけて、ジャン=ポール・ベルモンドが出ている 『いぬ』(’62)を鑑賞し、土曜は、夕方に出かけて、
錚々たる映画人たちによるメルヴィル・トークと、本人出演の貴重な映像や言葉よりその作家的原点に肉薄する、
興味深いドキュメンタリー、『コードネームはメルヴィル』 を観たんだが、後者はフツーに日本語字幕だったものの、
『いぬ』 はなんと英語字幕だったため、初見で詳しく内容を知らなかったこともあり冒頭軽いショックを受けた……。
こういうコアな企画だと字幕が英語という場合が往々にしてあるから気をつけていたつもりなんだけど、しかしまぁ、
世の中、日本語字幕が丁寧に付いていたっていったいなんの話かサッパリわからない映画もゴマンとあるワケで、
それに劇場の雰囲気が個人的には、ヨーロッパを旅行した時にどこかで見かけたような感じに近かったこともあり、
当日の冷たい雨も相まってなんか寒々しいヨーロッパの国の片隅で映画を観ているようなそんな感覚も味わえた。



ここまで時代がデジタル全盛になってくると、クラシック映画のモノクロ映像の方が逆に贅沢みたいな気がするし、
いかに話の筋がハッキリとはわからなくても、メルヴィルが小粋に描く夜の世界や人物に漂う翳りといったものは、
もうそれだけで充分“映画”って気がして、本当に話はわからずじまいだったけど、損した気持になどならなかった。
なによりギャングの情婦役で出てくるファビエンヌ・ダリの妖艶な色香が素晴らしく、モニカ・ベルッチ似の顔といい、
モニカ・ベルッチにも劣らぬ肉感的な体といい、彼女のセクシーすぎるチャイナドレス姿を観ただけでも元は取れた。
妖しく怖い夜の薫り、追い詰められる男たちの背中、そして、この世のものとは思えぬほど美しい夜の蝶たち……。
やっぱりノワールはえぇなァ~。というワケで、まるでタイプは違うものの、現在ノワール映画が2本やっているので、
これまた週末観てきたんだが、ではその2本がもし英語字幕でも耐えられたかというと・・・というのがオチなワケで。



予告篇の段階でこれは単にジョニー・デップがカッコいいだけの映画なんじゃないか…という気はしていたんだが、
1930年代、大恐慌時代のアメリカで、“パブリック・エネミー〈社会の敵〉No.1”と称され、“ボニーとクライド”みたく、
義賊として大衆に人気があったという、実在の犯罪王、“ジョン・デリンジャー”とFBIの攻防をド派手に描いた映画、
『ヒート』 や 『インサイダー』 のマイケル・マン監督最新作そしてデップ効果で話題の 『パブリック・エネミーズ』 は、
観れば確かにデップ兄さん演じる犯罪王の無頼な立ち姿は惚れぼれとするばかりだし、主人公の恋人役を演じる、
『エディット・ピアフ』 のマリオン・コティヤールだってキレイなら、さすがマイケル・マンらしくド派手な銃撃戦もあって、
時代を的確に(多分)再現した美術や衣裳も素晴らしい、観応え抜群のこの冬の必見作という体じゃあったんだけど、
反面物語には奥行きがないというか、本当に外見がカッコいいだけで胸にグッと迫ってくるような映画じゃなかった。

けっきょくは世界中のデップ・ファンの女性が満足すればOKな映画なんだから言うだけヤボなのはわかっているし、
それをわかってかわからずか、クリスチャン・ベイルも見事に“噛ませ犬”役を買って出てるといった感じなんだけど、
相変わらずスタイル至上のマイケル・マン監督の演出はデリンジャーを単にヒーローのように描いてしまってるから、
本来の稀代の犯罪者としての生々しさがデップ=デリンジャーには感じられずそれが入り込めなかった理由の1つ。
義賊なんてのはマスコミや大衆が作るイメージの話であって元は金を盗んで楽して生きたいという悪党なのだから、
もっとそういう、生来的な“悪”の部分を暗く濃厚に描いてくれないと物語に艶なんて出ない。そこがあってはじめて、
このテの男は映画においてカッコよくなるんだと思うしその悲愴な末路にも説得力が増すと思うんだけどどうだろう?
鶴田浩二や高倉健が演じたような任侠ヒーロー物とは訳が違うんだからボクはもっと怖ろしい犯罪王が観たかった。

その点、少し前に公開され微塵も話題に上らなかった、しかし60年代から70年代にかけてフランスで暴れたという、
同じく実在の犯罪王を、ヴァンサン・カッセルが外見そのままに演じた 『ジャック・メスリーヌ』 は、義賊云々の前に、
稀代の犯罪者を悪党としてキッチリ描いていて怖かったし、ゆえにノワール的にも緊張感抜群で出色のデキだった。
(まぁ、『ジャック~』 も当初ヒーロー映画だったのをヴァンサン・カッセルが脚本の段階で蹴ってああなったようだが)
30年代の大恐慌もかくやというぐらい今が世界的な不況だからこそこうした映画もまた必要とされると思うんだけど、
それなのに単に昔の犯罪者がカッコよくて愛に生きたなんてぇ描き方じゃ現代映画としての意味は稀薄だと思うな。
まぁデップ好き女子は確実に満足できる鉄板的1本にはなっているからもうやめようヒガミとか思われんのもヤだし?
一方、もう1本のノワール映画は実録犯罪物とは違って今度は世界的に有名な推理作家の小説を原作にした作品。

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その推理作家とは御存知、「メグレ警視」シリーズの生みの親(って読んだことはないけど)ジョルジュ・シムノンで、
本作、『倫敦から来た男』 の原作は75年も前に書かれたという同名小説。それを「これは私たちの物語だ」として、
これまた今ドキ、モノクロ映像も贅沢に映像化したのが、7時間半の大作 『サタンタンゴ』 や(知っているけど未見)、
2時間25分をたった37カットで撮った、驚異の“睡眠導入”映画 『ヴェルクマイスター・ハーモニー』 で知る人ゾ知る、
“ハンガリーの至宝”とも呼ばれる作家、タル・ベーラ監督。本作は 『ヴェルク~』 から7年ぶりとなるその最新作だ。
というワケで、いくらジョルジュ・シムノンが原作で基本はサスペンス系みたいなことを言っていても、監督の前作を、
チョットでも観たことがあるならだいたいの察しは付く通り、これがまた途轍もなく“客を選ぶ”作品となっていて驚き。
今回も長~い2時間18分の上映時間中「今、なんの映画観てるんだっケ?」という瞬間が何回も何回も訪れるんだ。



話としては、ある晩、殺人を目撃した港湾鉄道員が事件に絡む大金を手にしたことから人生を狂わせてゆくという、
『シンプル・プラン』 と同じようなテーマのものだと思うんだけど、それを確かに美しいモノクロームの詩的な映像と、
もはやギネス級の超長廻し、そして「その話今でないとダメ?」的エピソードのツヅラ折りで見せるのがベーラ式で、
フシギと(?)寝はしなかったんだけども、映画を堪能し切ったワケでもなく鑑賞後はしばしホゲェ~という感じだった。
ま、本作に限ってはソクーロフみたく「難解」というワケじゃないから(多分)興味が湧けば試してみてほしいんだけど、
と同時にボクはこの映画に対してはワリに肯定派で、なぜならば冒頭にも書いた通り、デジタル全盛のこの時代に、
こういうモノクロームの映画をじっくり観ることって逆にすごく贅沢な気がするし、ハッキリいってこんな退屈な映画を、
好き好んで映画館の闇に埋もれながら観るなどなかなか優雅な話だと思うので。世の中これだけ大変なのに……。


『パブリック・エネミーズ』 みたいな映画がヒットするのもいいことだけど、こういう映画にだって、列ができてほしい、
というワケで渋谷の劇場はスコリモフスキー映画の時張りに列ができていたので非常にいいことだと思ったしだい。
で、話は元に戻り、メルヴィル特集の際、『いぬ』 はいつも通り独りで観に行ったんだけど、ドキュメンタリーの方は、
最近、ある場所で仲良くなった大学生のシネフィル青年とともに観に行って(というか現地で逢って)、映画の帰りは、
「メルヴィルって本名じゃなかったんですね」とか「『仁義』 の“仏陀の話”はやっぱり創作だったね」とか言いながら、
駅近くの中華食堂に入り、映画の話や、旅行が好きだというから旅にまつわる話などして、ひとしきり盛り上がった。
近頃、映画を通して若者との交流が若干増え、オッサン臭い言い方するけどなんかすごく刺激をもらっている気分♪
やっぱりサ、家にこもってDVDでばかり映画なんか観てたってそんなモンは血にも肉にもなりゃしないって話なんだ。
映画はやっぱり映画館!なワケで 『コードネームはメルヴィル』 は追加上映もあるので興味があればコチラもぜひ!

『パブリック・エネミーズ』
新宿ミラノ ほかにて公開中 ]
『倫敦から来た男』
シアター・イメージフォーラム(渋谷) にて公開中 ]
「ジャン=ピエール・メルヴィル特集 ~コードネームはメルヴィル~」
東京日仏学院(飯田橋) にて12月19日(土)まで開催
 『コードネームはメルヴィル』 は12月19日(土)11:00より上映 ]