37年ただ一度の“ひと目惚れ”と500日のサマーヌード 『(500)日のサマー』

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ひと目見て、ウワァ~このコ可愛いなぁ~♪という経験だったらおそらく今まで5万回以上はあると思うんだけど、
いわゆる“ひと目惚れ”の経験となると想い出す限り1回しかなく、それはボクが会社員になって3年目のある日、
ではなく入社して2日目のこと、相手はボクが後に配属される部署で事務をやっているユカちゃんという子だった。
ひと目見た瞬間「か…可愛い…」と思ったのは当然なんだが、先輩に「新人くん、みんなに呑み物買ってきて」と、
小銭を持たされたので買いに行こうとすると彼女が「私が行きましょうか?」と気づかって申し出てくれ、とはいえ、
そのまま任せるとマズいんじゃないかと思って一緒に買いに行くことになったら、自販機を前になぜかユカちゃん、
「コッチが温かいので、コッチが冷たいの」と突然自販機の説明をし出し、「ハイわかりました…って書いてあるし」
とボクが突っ込むと、「そうですよね!」と彼女も笑って、その笑顔で、ボクは完全に彼女を好きになったのだった。

なったのだったって、ボクには当時大学の頃より付き合っているカノジョがいたので思えばひっどい話なんだけど、
やっぱり働き出すと大学の時のように毎日逢うワケじゃなくなるから、気持はどんどん新しい恋へと傾いていって、
社員名簿を見るとなんとユカちゃんはボクと誕生日が1日違い(1コ先輩の1コ歳下)。“運命”と思うにゃ充分だった。
(しかし2年後に入社してきた“森永卓郎”似の後輩がユカちゃんとまったく誕生日が同じでずっコケたのがご愛嬌)
今思うと1年目で仕事もできず気持も不安定だったので余計社内に“拠り所”たる誰かを欲したのかもしれないが、
そんな入社して4ヵ月ほど経った頃のある週末、会社全体の呑み会から帰った後、ボクはとうとう我慢し切れずに、
酔った勢いもあってユカちゃんに電話し(しかも自宅。ケータイ普及前夜の頃だった)、「好きです」と言ってしまった。
別に二股とか考えていたワケじゃなくて本当に一時の血の迷いだったんだけど、まったく若気としか思えない(恥)。

ボクにカノジョがいることはもう粗方知れ渡っていた上でのことだったので、ユカちゃんにも、「カノジョいるでしょ?」
と何言ってんのコイツ?みたいな風に言われボクも素直に「ウん」と応えて終了~!という感じでその時は終わり、
「あぁ…俺はなんてことを…」と穴があれば入れたい、モトイ入りたい気持で、ボクはその週末を過ごしたんだけど、
しかし当のユカちゃんはまるで何ごともなかったみたいに、その日以降もそれまでと同じようにボクと接してくれた。
で、ボクも少しずつ仕事ができるようになって、会社に自分の居場所を築き、同世代の連中とも仲良くなってくると、
そんな失態もなかったことのように、ボクと彼女はフツーにウマが合うという感じになっていって(同じ部署だったし)、
ボクが会社へ行くなによりの楽しみは、ユカちゃんを誰より「笑わせる」ということになっていった(仕事せい仕事!)。
一方ではちゃんとカノジョもいたんだしボクの方がよっぽどサマーだったんだけど、今となりゃぜ~んぶ若気の至り。

しかし、ユカちゃんにはなかなかカレシがいなかったということもあって(ずいぶん身持の堅い女性ではありました)、
向こうにしてみりゃボクは笑いのツボが合う友だちの1人だったんだろうけど反面コチラの恋心は膨らんでゆく一方、
けっきょくひと目惚れから500日くらい経った頃(ウソ、1年半)、ボクはカノジョとの関係についにケリをつけると(ひど)、
ユカちゃんを誘い出して、「付き合ってほしい」と告白したんだけど、したんだけど……フラれた(そりゃそうだよネ!)。
100%自信があったというワケじゃなかったが、しかし実はどこかで一発ヤッたことがあるってワケじゃないにしても、
悩みを聞かされたり、お気に入りのプリクラをよこされたりしていたので(ささやか!)まるで脈ナシだったとも思わず、
だからフラれてショックだったし(そりゃそうだよネ…)、同じ部署だったこともあってそれからはホントに“地獄”だった。
その日からまた500日ほど経った頃に(またウソ、1年半)ボクは脱サラするんだけど自分史上最もダメな日々だった。


長くなってきたので端折りますが、そうして完膚なきまでにフラれたからといって当時のボクは往生際が滅法悪く、
なかなか彼女のことが諦め切れなくて、とはいえ、それまでと同様に接することができるかといえばそれもできず、
付き合ってくれないなら嫌われて相手の心に楔を打つ方がまだマシだとあからさまにシカトして気を惹こうとしたり、
かと思うとひょんなキッカケでまた仲良く話すようになったり、サマー以上にボクはユカちゃんを振り廻したんだけど、
彼女も彼女でボクが明らかにガキだから冷徹にはなれなかったのか仲のいい時は以前みたく接し続けてくれた―。
もしかしたらそれがユカちゃんの悪いところではあったかもしれんが、なにしろ彼女は誰よりも魅力的な女性だった。
お互いフリーだし、フラれた後も時々2人で呑みに行ったりカラオケに行ったりしてたんだが、ボクに気をつかってか、
恋愛に関してあまり話さない彼女への当てつけも含めよく歌っていたのが真心ブラザーズの「サマーヌード」だった。



 何か企んでる顔
 最後の花火が消えた瞬間
 浜には二人だけだからって
 波打ち際に走る
 Tシャツのままで泳ぎ出す

 5秒に一度だけ照らす
 灯台のピンスポットライト 小さな肩
 神様にもバレないよ 地球の裏側で

 僕ら今 はしゃぎすぎてる 夏の子供さ
 胸と胸 からまる指
 ウソだろ 誰か思い出すなんてさ

こうして歌詞を書き起こすと、なんて筋少好きのボクには似合わぬ爽やかな歌なのかと思うんだけど(でも名曲!)、
とにかくそんな、決して開かぬ頑丈な扉を押したり引いたりするような、不毛極まりない日々を1年半余り送った末、
これじゃ自分が灰になる、そしてこれ以上会社にいれば、ずっとユカちゃんに迷惑をかけ続けてしまうという気持で、
ボクは思いきって会社を辞め、そして長年夢だった海外長期独り旅を達成することに…と書けりゃカッコいいものの、
それ以降の自分の女性遍歴を顧ると、まだあの頃の方がマトモだったというのが、なんともお恥ずかしい話で……。
だけど、人生のある時期において失恋がパワーになるというのはある意味本当で、会社を辞めて3ヵ月程度が経ち、
いよいよ旅立つという直前に、元同僚よりユカちゃんにカレシができたとの報を聞いた時は、ショックやら悔しいやら、
それこそウソだろと思ったんだけど、反面、辞めてよかったと、俺も頑張ろう!と、そんな風に思ったのも憶えている。


というワケで、ユカちゃんは決していわゆる男を振り廻すようなタイプじゃなかったし(ただ理想は高すぎると思った)、
振り廻すといえばけっきょくボクにしたって同じようなモンで恋って本当に難しいネ!ということが言いたいんだけど、
運命の恋を信じている男子と、そんなモンあるかボケッ!と思っている女子という、水と油のようなひと組の男女の、
500日にわたる恋の模様を抜群の構成と斬新な遊び心で描いてアメリカでは口コミで大ヒットしたっていうこの映画、
『(500)日のサマー』 を観ながら、オジサンは若き日の恋愛を想い出して胸がキュンキュンしてしまったというしだい。
そんな素敵な本作、ボクは、渋谷のシネクイントへ封切初日の最終回を狙って出かけ(もちろん、独りボッチでな!)、
そしてスクリーン向かって右側の塊の最後列で観てたんだが、4連席のその列にはボクともう1人女のコしかおらず、
なんか疑似カップルみたいでそれもよかった♪ もしかして運命だったのかなぁ~!(すんげぇいい匂いのコだったし)



なぁ~んて今じゃすっかり運命の恋? どっちでもいいじゃない?というような寂しい年齢となってしまったんだけど、
本作はトムという“恋に恋する”タイプの男子と、サマーという超現実主義なタイプの女の子との出逢いから別れを、
時間軸を切り刻みつつも“何日目”という表示を逐一することによってその構成を活かすという仕掛けで描いており、
初めてHした翌日にトムが浮かれながら街を歩いていると、それがミュージカルに展開してゆくという楽しい発想や、
トムの理想の展開と現実の展開を二分割画面で同時に見せてゆくなどといった遊び心満点の手法を駆使しながら、
彼がサマーという超個性的な(早くいったら面倒臭い)女の子の独特の恋愛観を前に疲弊してく過程を見せてくれる。
だけど本作が気持好いのはそんなある意味“運命”という自己暗示に縛られて勝手に疲れ果ててゆくトムの内面を、
男主観で描きつつもサマーを決して悪く描いてないところで、だから彼に共感でき恋ってえぇな~とも素直に思える。

よく「女はわからない…」とボヤく男はおり、そりゃまぁそうなんだけどしかしそれって実は男のめいイッパイの見栄。
本当は女ってその都度その都度ハッキリしてるんだろうし、ただ男はそれに合わせられるほど器用でないっていう、
それだけのこと(トホ…)。今ドキの恋愛をミュージッククリップ出身の監督がチョット小器用に描いてそれで終わりな、
その程度の映画と思っていたんだけど、なんのなんの本作は実に男にとって痛すぎる恋の本質を鋭ぉく突いてるし、
とはいえラストじゃ失恋がトムのパワーにもなってゆくということで、ある若者の心の成長物語として非常に清々しく、
オチもベタだけどウマい!とヒザを打ちたくなるような感じで、本当にこの時期に誰にもおススメの1本になっている!
「アナタじゃない」 そう!目の前のたったそれだけの真実が、とくに若い頃はなかなか受け入れられないんですね。
ただヤッたのにそんなして言われたら、まるでソッチも三行半を突きつけられるみたいで、ショックも倍ではあります。



ふぅ(ため息)。映画に感化され冒頭思わず忘れかけていた昔の恋に触れてしまったけど(ウソ!ガッツリ憶えてる)、
ボクが会社を辞めた後めでたくユカちゃんにはカレシができ、すぐ寿退社して幸せな結婚をした…というのだったら、
そんな話を友人より逐一聞くたびに俺も頑張らなきゃ!とカンフル剤にできたかもしれないんだけど、しかしその後、
なんとユカちゃんはその会社にほとんど10年近く在籍し、最後は“お局様”状態だったっていうんだから誰もが人生、
映画のようにはウマくいきません……。最後に2人で呑んだ時、ボクが「後5年ぐらいはいそうだよね」とチャカしたら、
「おらんワ!」と怒ったけど、そんな長くいるんなら1年くらい付き合ってくれてもよかったじゃん!!
と仮にユカちゃんに逢ったらチョット言ってみたい。ま、今はさすがに結婚して幸せな主婦生活を送っとるそうですが。
ボクは彼女にとり、「アナタじゃなかった」 出逢ったのも運命なら、そう思われるのもまた運命。受け入れるよりない。

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退社する日に部署だけでささやかな送別会を催していただき、しみじみ呑んでカラオケへ行ってみんなと別れた後、
ボクとユカちゃんは課長の車で送ってもらったんだけど、とうとうお別れか…と思うとボクはもう彼女の顔も見れずに、
ただ課長ととりとめもない会話だけして、会社に車を置いてたから先に降ろしてもらった(よく考えたら飲酒じゃん!)。
別に100%ユカちゃんキッカケで会社を辞めるワケでもなかったんだが、彼女にしても何か思うところはあったようで、
「元気でね…」 と決して軽くはない響きで言ってくれたものの、それでもボクは「お世話になりました! お元気で!」
と返すのが精一杯で、車を降りると、後部座席より彼女がボクを見ているのを感じながらしかし二度とは振り返らず、
一目散に自分の車に飛び乗って、すると体中に張りめぐらされていた糸が切れたみたく、ボクはようやく泣き出した。
悲しいような惨めなような、それでいてホッと心地好いような、あの時は本当に人生が変わるって瞬間だったなァ~。
そして帰りにずっと聴いていたのが、この曲でした。最後に歌います! 聴いてください。シャ乱Qで、「パワーソング」



 虹がかかった 一人になった
 どんなに泣いても俺は俺だった

 恋の途中で ウソをついたら
 知らぬ間に人傷つけると知った

 あんなに誓った 二人の未来
 だけど全ては 昨日までの事

 誰もが孤独とわかっていながら
 気付かぬフリして歩いているんだ

 ゴメンよゴメンよ なぜ かなしいんだろう
 止めたりしないよ仕方がないだろう
 終わっちまった

 なんの役にも たたない様な
 俺でも 「必要なんだ」と言ってくれた

 いやな思いから 逃げ出したなら
 いつかどこかで つけが来ると思った

 突然ふり出した 雨の様な恋
 止むの忘れて 夢中で愛した

 生まれた時から 一人なんだけど
 忘れてゆくんだ いろんな恋をして

 ゴメンよゴメンよ 一人にしてたね
 最後になるまで 気がつかなかった
 行っちまうのかい

 誰もが孤独とわかっていながら
 気付かぬフリして歩いているんだ

 ゴメンよゴメンよ なぜ かなしいんだろう
 止めたりしないよ仕方がないだろう
 終わっちまった





『(500)日のサマー』
シネクイント(渋谷)、TOHOシネマズ シャンテ(日比谷) にて公開中 ]