“世界が愛した才能”はいつか“世界のなかの日本映画”となりえるか?

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今渋谷で、1986年に亡命先のパリで亡くなるまでの間にたった9本の映画しか遺さなかったロシアの映像詩人、
アンドレイ・タルコフスキーの回顧展が催されており、『殺し屋』(’58)と 『ノスタルジア』(’83)だけ未見だったから、
なんとかこの機会に2本とも劇場で観たいなと思っていたんだけどけっきょく 『ノスタルジア』 は観逃してしまった。
まぁ 『殺し屋』 だけでも観られたんだからよかったんだけれど、しかし“殺し屋”とはまたらしからぬタイトルながら、
そこはやっぱりタルコフスキー映画。劇中確かに殺し屋が出てくるといっても人がバンバン死ぬなんてワケはなく、
作者が全ロシア国立映画大学在学中に創ったというこの映画は、ヘミングウェイの同名小説を題材にした短篇で、
町の食堂が2人組の殺し屋に乗っ取られるって話。まぁ特別面白くはなかったものの、独特の緊張感や倦怠感が、
学生映画にしてはやはり重く、若き日のタルコフスキー本人も客の役として登場するなど興味深い1本ではあった。

で、『殺し屋』 は19分しかないからもう1本、今度は学校の卒業制作で創った、1960年の作品で初の単独監督作、
『ローラーとバイオリン』 も観られたためコチラは久々に観たんだけど、卒業制作にしたら、46分と長いこの映画は、
バイオリンを習っている7歳の男の子とローラーで整地の仕事をしている労働者との束の間の交流を描いたもので、
そんな概要から察しがつく通り、“労働”と“芸術”という2つのテーマをウマくすり合わせた、旧ソ連映画らしい作品。
とはいえ、アルベール・ラモリスの名作 『赤い風船』(’56)をモチーフにしたという物語は心が温まるし、そんな中に、
水や鏡を駆使したタルコフスキーらしい映像も随所に出てきて、なんか今回は初めて観た時よりずいぶん感動した。
また、本作は当時、「ニューヨーク国際学生映画コンクール」という映画祭で1位を獲っており、それをキッカケとして、
タルコフスキーの名が世界へ広まっていったのは周知の事実。因みに共同脚本は、アンドレイ・コンチャロフスキー。

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で、詳しい経緯はもちろんよく知らないけどおそらくタルコフスキーは西欧米文化に精通しているタイプだったから、
ある意味、そうやってアメリカの映画賞に応募しそれを“利用”することで、自分の作品や作家としての存在を早く、
西側に知らしめたかったんじゃないのかな…とも思うんだが、なるほど、世を見渡せば、何もソ連の話だけじゃなく、
一生懸命、映画を創りながらもそれを一般の目、要は一般劇場でかける機会をなかなか持てずに、だからマズは、
映画祭などに自作を通して…と考えている映画作家はたくさんいて、確かに手段としては厳しいけど有効だと思う。
今通っている映画配給のワークショップ絡みで少し前に出逢った中にも自分で映画を創っているという女性がいて、
彼女もまた、映画を宣伝・配給する資金がないからと、せっせと海外の映画祭へ応募している最中だったんだけど、
自分で作ったという英語のプレスを見せてもらいながら、偉いなぁ~と映画を観るだけのボクは感心したモンだった。

そんな中、そうやって、自作を海外映画祭へと売り込んでいる作家たちを応援しようという意味もあると思うんだが、
ところ変わって次に六本木の劇場じゃ今、「世界が愛した才能」と題し、世界を視野に海外映画祭へ自作を出品し、
なおかつ高い評価を受けている若い映画作家の作品を、日替わりで上映するという企画を開催しており、第1弾は、
その「北米編」てことで、つい先日ボクはテキサス州のオースティンで開かれているらしい「オースティン映画祭」で、
見事グランプリを受賞したという、三宅伸行監督(ボクより1コ下。凄いなぁ~)の 『Lost & Found』 を観に行ってきた。
で、ボクの今年の個人的テーマは自分と同世代、あるいは自分より若い世代の監督を応援しようというものなので、
できたらこの映画に関しても、甘やかさないまでも誉めることは誉めて少しでも宣伝になればと思っていたんだけど、
いたんだけど…ウ~ん。決して悪くはないものの、反面これはチョットなぁ…と感じる部分も多い映画だったっていう。



雪深い東北(山形)のローカル線の終着駅、その中にポツンと佇む「落とし物あずかり所(Lost & Found)」を舞台に、
その昔東京ですべてを失った係員と、それぞれの人生に傷つき、迷いながら駅を行き交う人々を描いた群像劇は、
確かに素直に観りゃいい話だし、決して小手先で撮ってるワケじゃないとわかる映像にも統一感があって観やすく、
そこで主人公を演じる日本映画屈指の名バイプレーヤー・菅田俊はいぶし銀の存在感と相変わらずの“いい声”で、
作者の温かいハートも伝わる丁寧に創られた良作だとはボクにしても思うんだけど、反面、人生の喪失感や歓びを、
美しくデコレートしたようなこの映画には、たとえば昨今流行りのJ-POPみたいなメッセージ色ばかりが見受けられ、
それが、人物の心情を説明しすぎるセリフの多さや、小説だったら通用する文語調のセリフ廻しと相まって鬱陶しく、
ハッキリいえば言葉を超えて胸に伝わってくるものがほとんどない。J-POPのPVによくあるドラマの延長っていうか。

おそらく、この監督は 『クラッシュ』 みたいな映画を創りたかったんじゃないかと思われ、それは別にいいんだけど、
しかし人生の失くし物と見つけ物のメタファーとして駅の落とし物あずかり所が舞台というのはあまりに照れ臭いし、
主人公はまだしも、山形が舞台でありながら登場人物が全員、標準語というのはいくらなんでも致命的にありえず、
同じく、奥飛騨の雪国育ちのボクには、なんか都会から見た、体のいい田舎を撮った映画としか思えなかった……。
いろんな人を描くだけ描いて急に“それでも人生はつづく”みたいに収まってゆくラストも一見感動的だけどあざとい。
とはいえ、本作がとある映画祭でグランプリを獲ったんならそれはそれで素晴らしいことだし、それがめぐりめぐって、
こうして一般客の目にも届いたという事実は、ボク個人の湿気た感想なんてともかく本当に意義のあることだと思う。
映画は観客の目に触れてこそ育つと思って次も頑張ってほしいと、これは心から思います。(偉そうに書いたなぁ俺)


ただし小説でも芥川賞や直木賞を獲って一時は話題になってもその後1冊も書くことなくいつしか消えてゆくという、
そんな作家が山ほどいるように、映画賞を獲ったからってそれで未来が開けるという保証は微塵もないと思うので、
やはり大事なのは、温かくも厳しい目で映画製作の環境を創ってくれるネットワークじゃないかとそんな風にも思う。
そしてそんな風にフっと思ったのも、『Lost & Found』 を観る前に、同じくかつて海外の数々の映画祭より招待され、
賞を受賞しながらもけっきょくその後映画監督のキャリアをつづけられなかったという作家の映画を観たからだ……。
それがこれまた今、今度は御茶ノ水のアテネ・フランセで開かれている“世界の映画研究者が選んだ日本映画”を、
9本上映するって企画、「世界のなかの日本映画」で観た1本、伊藤智生監督 『ゴンドラ』(’86)だ。なぜこの監督が、
映画を辞めたのかは知る由もないが、これが本当に素晴らしい映画だってことだけは確実に言える。観て良かった。

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ボクが世代柄80年代のインディーズ映画とかそれを彷彿とさすような作品に肩入れしやすいという事情もあるけど、
撮影当時、本当に不登校を繰り返していたという少女が演じる孤独なカギっ子“かがり”(↑)と、青森から出てきて、
窓ガラス清掃の仕事をしている青年との束の間の交流を綴ったこの映画は、随所に鮮烈なイメージを宿しながらも、
途轍もなくメランコリックで、胸をかきむしらんほどに切なく、危ういメルヘンも効果的にコチラの胸をワシ掴みにする。
青年とともに青森へ往き、そこで暗かったかがりが少しずつ瞳に生気を取り戻してゆく後半、ボクは恥ずかしながら、
ずっと涙腺が緩みっ放しだった。このまま、“終わってほしくない”という映画を、ボクは、久々に観たような気がする。
もっと若い頃に観ていたらこの映画はボクにとって 『日本製少年』 を超えるような作品になっていたかもしれないな。
「死んじゃうと、生きてたことってどこ行っちゃうのかな」 …どこ行っちゃうんだろうね?(俺は本当に感傷的な人間だ)


因みに伊藤智生(ちしょう)監督は、今は“TOHJIRO”という名でAV監督をしている。人生いろいろ、映画もいろいろ。
ただ劇中出てくるかがりを含め3世代の女性の裸体描写を観ると、そこにはもちろんエロチックな匂いもありながら、
それ以上に“女性賛歌”といったものを感じるので、この監督がAVにいったというのもなんかわかるような気はした。
…さて、上で三宅伸行監督の 『Lost & Found』 に関してはアレコレと難クセをつけてしまったけど、しかしそれでも、
たとえば昨日やっていた業界の“しがらみ”だけで成り立っていると単なる映画好きでもわかる、なんの権威もない、
日本ア○デミー賞なんゾでムダに受賞するよりは自分で海外の映画祭へ応募しグランプリを獲ったというその方が、
何倍も価値、というより意味深いっていうことだけはわかった上で書いたつもりなので本当に今後も頑張ってほしい。
そしていつか、世界のなかの日本映画として語られるような作品を撮ってほしい。頑張れ!! 世界が愛した才能たち!

「世界が愛した才能」
シネマート六本木 にて3月19日(金)まで2作品日替レイトショー公開 ]
「世界のなかの日本映画―国際交流基金所蔵フィルムから」
アテネ・フランセ文化センター(御茶ノ水) にて3月6日(土)まで開催 ]
「タルコフスキー映画祭2010」
シアター・イメージフォーラム(渋谷) にて3月12日(金)まで開催 ]