脱北者の現実を描いた必見の力作と、脱香港したあの男 『クロッシング』&『スナイパー:』

画像

2年前の2月に、修理に出したパソコンより名だたる女優やアイドルとのいわゆるハメ撮り写真が流出してしまい、
香港どころか、世界中のド肝を抜く一大スキャンダルを巻き起こした、御存知、“ハメ撮り王子”エディソン・チャン。
ボクが大好きだったセシリア・チャンにまでハメやがって(しかも人妻!)、オマエなんかイッソのこと死んでしまえ!
と、当時は男として羨む反面憤ったモンだけど、しかし、『インファナル・アフェア』 や 『ドッグ・バイト・ドッグ』 など、
一役者としては素晴らしい資質の持主だと思っていたからあんなことで引退するなんて残念な話とは思っていた。
ところが、もう香港には戻れんだろうし国外に亡命したまま生きてくんだろうか、と思いつつ、しかしいつの間にか、
彼のことなどすっかり忘れていたら、なんでも事件前に完成しつつお蔵入りになっていた香港映画最後の作品が、
ついに日本でも公開というのでふ~んと思っていると…なぁ~んだ。とうの昔に彼は芸能界に復帰していたらしい。

まぁ所詮は男と女の話で、何も彼にばかり責任があるワケじゃないだろうから、復帰したんなら頑張ってほしいし、
あんなことになれば少しは人間だって変わるだろうと思うので、今後の彼にマズは注目といったところなんだけど、
ただ、それとは別に“逃げる”というのは本当に辛いものである。ボクもかつて一度だけ逃げたことがあるが(女で)、
“逃げている”という状態は常に精神を摩耗させるし、「なぜこんなことに…」と考えは鬱な方にばかり行ってしまう。
しかし、女で勝手に失敗して逃げるくらいまるで楽な話。だってこの世界には、ただ慎ましく暮らしたいだけなのに、
そんなささやかな希望さえ叶わず、結果辛い想いを胸に国を逃れて生きている人々だって大勢いるのだから……。
というワケで、ニュースでは時折り耳にしながらも近くて遠い国の話と普段ボクらが思いがちないわゆる“脱北者”。
そのあまりに悲しい現実を描いた映画を観てきたんだけど、本当に、人間、フツーに生きられるだけで幸せな話だ。



とにかく、予告篇を観て少しでも心が動いたなら観てほしい。これほど観ていて辛くなる映画も最近なかったけど、
自分がいかに幸せか、そして世界がいかに理不尽に充ちているかを知るためにも1人でも多くの人に観てほしい。
『火山高』 に、『彼岸島』 など、どちらかといえば娯楽映画を創っている印象の強い韓国のキム・テギュン監督が、
100人以上の脱北者への取材を重ねて、実際の脱北経路を行き来しながら4年の歳月をかけて撮り上げたという、
この映画、『クロッシング』 は、観れば誰もが心を揺さぶられるに違いない、今最も観る意義のある必見の力作だ!!
脱北者と聞いて、やっぱりボクら日本人が想い出すのは、2002年5月8日に、中国の瀋陽にある日本総領事館に、
北朝鮮から逃げてきた親子5人が駆け込んだあの事件で、生々しい映像に当時誰もが息を呑んだと思うのだけど、
本作がきっと綿密な取材の元に描いているのは、まさしくあの悲愴な映像の奥にあった、脱北者たちの物語……。

中国国境に近い北朝鮮の炭鉱の町で、妻のヨンハと、11歳の1人息子ジュニとともに貧しくも幸せに暮らしていた、
元サッカー選手のヨンス。ところがある日、妻ヨンハが肺結核で倒れてしまい、北朝鮮じゃ風邪薬を買うのも難しく、
アテにしていた党に賄賂を渡すことで中国を往き来していた知人もスパイ容疑で捕まり一家離散してしまったため、
ヨンスは薬を買うべく決死の覚悟で国境を越えて、中国で働き始める―。しかしある時、公安に発見されて追われ、
逃げ切ったものの金を落としてしまったために、インタビューされりゃ金を稼げるという脱北ブローカーの勧めに乗り、
ドイツ大使館へ逃げ込むハメになる。だけど、彼はそのまま韓国へ亡命することになり北には戻れなくなってしまう。
一方、北朝鮮では、夫の帰りを待っていたヨンハが、ジュニの世話も虚しくヒッソリと他界し、孤児になったジュニは、
父との再会を信じて国境を目指すんだけど、すぐさま捕まり、強制労働キャンプへと入れられてしまうのだった……。

という具合に粗筋を見たならわかる通り、映画は途中からそれはもう悲劇、悲劇のオンパレード。だから観る前は、
ただ脱北者を“悲劇のコマ”に観客を泣かそうとするだけの映画だったらヤだなと少しぐらいは思っていたんだけど、
確かに、韓国映画らしい“泣き”の演出により父子のドラマが語られながら、それをケして不快と感じなかったのは、
やはりそれを超えて描かれるリアルな描写に、これが本当に日本に近い半島で今にも起きている話だと思わせる、
迫真たるものがしっかり込められていたからだ。父と別れ、母を亡くし、1人キリとなったジュニが彷徨う闇市などは、
日本の戦後の闇市の方が、まだマシだったんじゃないのかと、とてもここ10数年の話とは思えないほどの貧しさで、
子供たちがビニール袋へ残飯を入れてもらうシーンにはホントに胃が軋むばかり……。『ヒョンスンの放課後』 とか、
『ある女学生の日記』 に描かれる生活はごく一部の話であって、これこそが多くの、北朝鮮末端の真実なんだろう。

そしてさらに衝撃的なのは、越境に失敗したジュニと離散した一家の娘ミソンが入れられる強制収容所の模様で、
昼は土木作業などをさせられ、夜は牢屋に押し込まれた上、“将軍様の教示”を暗唱させられたりする場面はもう、
ナチスによるユダヤ人収容所を思わせるほどの残酷さでいかに脱北が命懸けの行為かが、イヤというほどわかる。
題材が題材だから、平和な国に住んでいる人間の安っぽい感傷だけで泣いちゃいけないと思いつつ観るんだけど、
そこで、どーせ普段はいい家に暮らして温かいチゲとか食ってるクセにジュニ役の子の芝居が巧すぎるモンだから、
コチラは泣いちゃいけないと思えば思うほど、まるで催涙弾でも投げられたかみたいにとめどなく涙が溢れてしまう。
幼き恋人同士であるジュニとミソンが自転車を直せと命じられ、コッソリ自転車に乗り出すんだけどジュニの背中で、
ミソンが絶命してしまうシーンは、「そんな場面、卑怯だろ!」と立ち上がり気味になりつつも心をワシ掴みにされる。

本来ならこのテで泣かす映画など大嫌いなんだけど、しかし今回に限りその深刻さを観客に呑み込ますためには、
“泣き”はどうしても必要な映画的効果だったのだ、きっと。それに、あれほど命懸けで手に入れんとしていた薬が、
韓国では保健所に行けばタダでもらえることを知った時のヨンスの表情みたく、映画は題材を前に何一つできない、
まさしく途方に暮れるような気持も我々に思い知らせてくれる。映画で悲劇を体感するとは実はそういうことなのだ。
そして、この映画を本当によいと思う理由は、“罪を憎んで人を憎まず”ではないけど、作者が体制は憎みながらも、
北朝鮮自体やそこに住む人々には同胞として敬意を込めた眼差しをちゃんと注いでいることだし、いかに貧しくとも、
家族がいつも一緒にいて子供が親を尊敬している国と、何か起こるとすぐ親が子供を殺し子が親を殺すような国の、
いったいどちらがマトモなのかと思う部分もあって、なにしろ映画は脱北者を通じ実に多くのことを考えさせてくれる。


タマの休みに観るような映画じゃないかもしれんが、拉致問題を抱える国の人間として絶対観るべき1本だと思う。
といったワケで前フリにも使ったので冒頭に戻り、芸能界復帰を果たしたそのエディソン・チャンの映画についても、
最後に少しだけ触れておきたいと思うんだけど、その映画、『スナイパー:』 は、香港の特殊“狙撃”部隊を題材に、
香港、台湾、中国の人気俳優が集まってCG過多だけど豪快な見せ場で贈る実に香港映画らしいガン・アクション。
ただし、話の軸はあくまでリッチー・レン扮する狙撃隊の隊長と、人質を誤射し、過失致死罪で4年投獄されたのと、
恋人を亡くした苦しみで精神的にオカしくなってしまった伝説の狙撃手との確執と対決であり、チャンが演じるのは、
部隊へ入って2人の間をかい潜りながら成長してゆく新人スナイパーという役。アンタ、本当にいい役者なんだから、
これからは性根を挿げ替えて、もう“夜の下半身スナイパー”は卒業しなさいって! ついでに 『クロッシング』 観ろ!



…しかし、いかに収入が低くて毎日切り詰めて暮らしているといったって、マトモな服を着て、マトモな物を食べて、
こうして呑気に映画観たりしていられるんだから、本当に恵まれた話だと、『クロッシング』 を観てつくづく思ったよ。
もしキミが、自分を不幸と思っているんなら、どうかこの映画を観るといい。そんな自分を、きっと恥じるハズだから。
今度の連休に帰省で名古屋方面に帰るため、その旨をお袋に伝えるべく、映画から帰った後に電話したんだけど、
そしたら、駅西のシネマスコーレや今池のシネマテークに行ってみたいから場所を教えてほしいと言い出したので、
調べてみるとシネマスコーレでもちょうど 『クロッシング』 をやっているし、連れていこうかな…なんて今考えている。
ただし仮に連れていったとしても連れてゆくだけでボクは一緒に観ない。なぜならお袋の泣き顔はもう観たくないし、
なにより、一度は絶対に観るべきでも、やっぱり内容があまりに辛くて二度観たいと思うような映画じゃないからだ。

『クロッシング』
ユーロスペース(渋谷) にて公開中 ]
『スナイパー:』
シネマ・アンジェリカ(渋谷) にて公開中 ]