上海万博より上海アニメ! 「美と芸術の上海アニメーション」&『9〈ナイン〉 9番目の奇妙な人形』

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開催日が5月1日だったこともあって、GW中はあんなに毎日ニュースやワイドショーで賑々しく扱っていたのに、
気がつけば案の定、その後の状況をトンと聞かなくなってしまった上海万博。まぁボクとしても別に興味はなく、
メディアが面白オカしく演出する会場の混乱ぶりを、「中国人ていったい…」という風に見ていたクチなんだけど、
良くも悪くもTVからでも伝わってくるあのパワーこそ、今の中国経済の源泉であることだけは、紛れもない事実。
そんな中、そんな上海万博の開催に併せ現在都内でこんな楽しげな企画が催されているのを御存知だろうか?
それがこの、「美と芸術の上海アニメーション」! アニメといえばそりゃ日本が唯一世界に誇る一大文化だけど、
なんでも近年、中国でもアニメ製作は盛んらしく、TVアニメの製作本数は今や日本を上廻る勢いなんだっていう。
でも、そのほとんどはやはり商業的アニメで、今回紹介されるのは1980年代に創られた芸術的なアニメの数々。

1920年代に始まった中国アニメの歴史は、1957年に上海美術映画製作所が設立されたことで以降盛り上がり、
手塚治虫や、宮崎駿や、高畑勲といった日本の巨匠たちをも唸らせる作品を、次々生んでいったらしいんだけど、
昨今、中国でアニメが盛ん!なんて聞くと、どーせまた日本のアニメをパクってるだけだろ?と思いがちなものの、
その歴史はボクらの想像以上に奥が深くて、日本のアニメに影響を与えるほどレベルも高かったってワケなのだ。
正直、ボクとしても最初、中国アニメと言われても「あん?」という感じで若干軽く見ていたところもあったんだけど、
これが観たら本当に驚きで、まぁ中国の文化的奥行きに関しては、多少なりとも知っているつもりだったとはいえ、
なんでもお家芸らしい“水墨画アニメ”の崇高さにはあらためて中国の文化レベルの懐深さを思い知る感じだった。
オイ、中国よ、万博や経済発展もいいけど、今一度自国のこの奥ゆかしく崇高な文化にも目を向けてくれないか?

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『牧笛』

実は8年ぶりの本企画。今回は本邦劇場初上映となる5作品を加えた12作品がラインナップされているんだけど、
ボクが先の日曜日に観てきたのは長篇1本に短篇が6本。上海美術映画製作所の設立メンバーであると同時に、
その奇蹟の水墨画アニメを創出した盛特偉による短篇3本は、とにかく観ろ!としか言いようがない、まさに神業。
アニメの創り方については、なんとくなくなら知っているものの、これはホントにどうやって撮ったの?という感じで、
パンフレットにケッコウ詳しい解説が載っていたんだけれど、なにせ素人だモンで読んでもイマイチよくわからない。
だけど観れば誰だって驚くのは間違いないような世界観だし、話は、少年と水牛の素朴な交流( 『牧笛』’63)とか、
親と逸れた小鹿と少女の触れ合い( 『鹿鈴』’82)だとか、琴を介した老人と少年の交流( 『琴と少年』’88)といった、
至極他愛ないものばかりなんだけど、水墨画独特の“滲み”を活かした絵のやわらかさには本当に心を奪われる!

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『鹿鈴』

とくに少年と水牛や少女と小鹿が寄り添い合うシーンで醸し出される胸を締め付けるような温かみといったらなく、
それは今日びのCGアニメじゃなかなか感じるのは難しいまさに人肌の温もりとも言えるもので途轍もなく感動的。
世界初の水墨画アニメというもはや伝説的なる1本、『おたまじゃくしが母さんを探す』(’62)も観たかったんだけど、
今週のラインナップにはないので次回に持ち越し。とにかく、水墨画アニメの世界を知るだけでも通う価値はある!
そして上記3本のみならず、後の4本も実に素晴らしい逸品ばかりだった。マズは“切り絵”を使ったアニメーション、
『猿と満月』(’81)。この切り絵というのがまた中国では民間芸術として高度な発達を遂げたものらしいんだけれど、
切り絵だからこそ表現できるスピード感といい、色彩といい、月を捕獲しようとする、お猿さんたちの愛らしさといい、
いきなりじじ臭いこと言うけど、やっぱり子供にはTVでやってるアニメよりこういうのこそ見せたいよね、ってな感じ。

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『猿と満月』(可愛すぎます…)

セル画アニメといったらボクらにも馴染みの深い技法だけど、しかしそれによる次の2作品も中国ならではの趣き。
『蝴蝶の泉』(’83)は雲南省の少数民族に伝わる悲恋物語を美しい華麗なタッチで仕上げた話にも泣ける傑作だ。
木こりの娘と狩人の青年の恋が、娘を我が物にせんとするキモい領主によって踏み躙られるってお話なんだけど、
2人が崖から飛び降りるクライマックスの表現の美しさには、どんなヘソ曲がりでも心をワシ掴みにされること必至。
そしてラインナップ唯一の長篇で、宮崎駿が感動しまくったという、『ナーザの大暴れ』(’79)は実に胸躍る活劇物!
ナーザとは中国じゃ孫悟空と同様に親しまれているキャラクターらしく、本作は蓮の蕾より生まれた少年ナーザが、
悪事を働く竜王一家を懲らしめるというストーリーなんだけど、京劇の動きを取り込んだアクションが躍動感満点で、
竜の体の筋を引っこヌいてそれで新体操をするナーザのブッ飛んだキャラとも相まり、全篇ワクワクしっ放しなんだ。

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先の5本はセリフがないんだけどこれはセリフも豊富なら声優の声も可愛らしく、竜王のビジュアルは昔懐かしい、
“龍角散”のCMみたいで(わかるかな~?)、同じ神話物でも今やっている3D映画の10倍は面白いと断言できる!
そして、面白いといえば後1本、最後は人形アニメ。「人形劇 三国志」でも有名な日本を代表する人形アニメ作家、
川本喜八郎が、上海美術映画製作所のスタッフとの共同で創った 『不射の射』(’88)は、春秋戦国時代を背景に、
1人の若者が天下一の弓の名人になるまでを描いた、海外でも評価の高い傑作。ホント震えるぐらい面白いんだ!
主人公の修行模様や、風吹きすさぶ荒野での決闘シーンなど、個々の描写へのコダワリがさすがに半端じゃなく、
真の武道とは武器を持たないことだというテーマも目からウロコだし、たった20分だけど3時間の大作を観たような、
とにかく物語よし、キャラよし、テーマよしな上でそれが人形アニメという芸術にマッチした完璧すぎる傑作! 凄い。



という具合に、個人的には今回、初めて触れた上海アニメの世界。今やパクリ大国とも言われ久しい中国だけど、
映画にしてもアニメにしても本当は豊かな土壌を持っていることを知る意味でもこれはいい企画じゃないだろうか?
一方、アニメつながりで同じ日曜にもう1本観てきたのが、2005年のアカデミー賞短編アニメ部門にノミネートされ、
そのデキに惚れ込んだティム・バートンが全面バックアップをすることで長篇作品に生まれ変わったっていうコチラ、
『9〈ナイン〉 9番目の奇妙な人形』。もう、予告篇を観るだに面白そうで、以前からケッコウ楽しみにしていた1本だ。
古臭い研究室の片隅で、麻布を縫い合わせて作られた、そして背中に“9”と描かれたオカしな人形が起き上がる。
人形が恐る恐る外に出ると街は廃墟と化しており、するとそこへ背中に“2”と描かれた自分ソックリの人形が現れ、
自分たちは仲間だと語りかける。しかし、巨大な機械獣が突然2人を襲うと、2はいずこともなく連れ去られてしまう。



で、他にも背中に番号のあるキャラが次々現れて、見渡す限り廃墟、つまり、人類が滅亡した後の世界を舞台に、
彼らが機械獣と闘いながら人類滅亡及び自分たちの存在理由を探してゆくこれはダーク・ファンタジーなんだけど、
主人公の9をはじめキャラはとにかく魅力的だし、バートンが惚れ込んだのも至極納得のダークな世界観も秀逸で、
スピード感あるアクションとともに、80分をゾクゾク楽しませてくれる面白いアニメ作品…だとは思ったものの、反面、
キャラと世界観だけが目立ち、元の11分を7倍強にムリヤリ引き延ばした肝心の物語はイカンせん弱かったかなと。
機械と戦争して人類が滅びたという設定は、いくらなんでも21世紀には古臭く、機械獣はまんま 『T4』 みたいだし、
自分のアイデンティティーを模索しながら成長してゆく主人公のドラマとしても設定に消されてしまった感がデカくて、
水墨画の方がスゴいとは思いつつもコチラだってそれなりに味わい深かったから実にモッタイないという感じだった。

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しかしまぁ、今日びのデジタルでヴァーチャルな若者たちが好むアニメについてはイマイチよくわからないとはいえ、
何歳になってもアニメというのは心惹かれるジャンルである。アニメを通らないで育った人なんかいないしね(多分)。
またフツーの映画以上に、アニメというのは創られた国独特の気質的なものを表わすから、そこもまた魅力なんだ。
というワケでラピュタ阿佐ヶ谷でも恒例の「アニメフェスティバル」が現在開かれており、今年は10回目ということで、
これまた世界中から選りすぐりのアニメ作品が集められているみたいなので、興味ある方はソチラの方にもどーゾ!
もう忙しくて(映画観るのに)これ以上ムリなんだけど、ノルシュテインの 『話の話』(’79)だけはまた観に行こうかな。
それにしても中国は独自の豊かな文化があるのになんであんな安々とヨソの国の文化をパクるのかしら?変な国。
多分、最近のアニメは日本丸出しのような気もするけど、他にも地味ぃ~に“チェコ”のアニメをパクったりしててね?

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『おたまじゃくしが母さんを探す』

「美と芸術の上海アニメーション」
K’s cinema(新宿) にて5月21日(金)まで開催 ]
『9〈ナイン〉 9番目の奇妙な人形』
恵比寿ガーデンシネマ新宿ピカデリー ほかにて公開中 ]
「ラピュタアニメーションフェスティバル2010」
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