猪木のカントリーかECHOESを聴いてみたい? 『ACACIA-アカシア-』&『クレイジー・ハート』

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辻仁成(じんせい)監督作といっても彼の映画を観るのは今回が初めてなら、小説も「母なる凪と父なる時化」と、
芥川賞をとった「海峡の光」しか読んだことがなく(作家の時は“じんせい”じゃなく“ひとなり”)、今の彼といえば、
やっぱりミポリンと結婚してパリに住んでいる世界一羨ましい男の1人というイメージしか浮かばないんだけども、
しかしこれがボクぐらいの世代だと、それに加え彼イコールやはり「ECHOES」って話になるんではないだろうか?
そしてECHOESの代表曲というと、真っ先に思い浮かぶのはこれまたやっぱり「ZOO」じゃないかと思うんだけど、
それ以上にボクが大好きだったのは(というより他にはあまり知らないんだが)、高校生の頃に聴いていたラジオ、
「鴻上尚史のオールナイトニッポン」のエンディングに使われていた「ONEWAY RADIO」という曲だった(懐かしぃ)。
毎週金曜深夜3時間際にこの曲を聴くたび、ボクはまるで自分の孤独を歌われているような気がしたモンだった。

 
 今夜こそは ラジオと話したい
 今夜こそは 僕の話も聞いてよ DJ
 RADIO 聞こえているか RADIO 僕らの声が 孤独なメッセージ

で、そんな辻仁成がなんでまた6年ぶりの最新作に、よりにもよって猪木を起用したのかは知る由もないんだが、
しかし逆にいえば、猪木が主演でなかったら、この映画を観ようとはマズ思っていなかったであろうことも事実で、
要はそれぐらいに“アントニオ猪木映画初主演”というのは普段の映画的興味を超えた大いなる興味なんである。
まぁ一プロレス・ファンからすれば、実はそんなに猪木自体は好きじゃなかったりもするんだけど、しかしやっぱり、
猪木抜きにプロレスを語ることなどできなければ、昔はよく新日を観に行くたびに猪木が出てくるや立ち上がって、
声を枯らして猪木コールをし「元気ですかァーッ!」には「元気でぇーす!」と応じ、そして「1、2、3、ダァーッ!」も、
腕がもげんほどに拳を突き上げながら叫んでいたクチなので、ここは一プロレス・ファンであればこそ、礼儀として、
本作はDVDじゃなく映画館で観るべきじゃあねえかと思ったんですが…「どーですかお客さぁーん!!」



というワケで猪木映画初主演作 『ACACIA-アカシア-』 は、その昔“大魔神”という名でプロレスラーをしていた、
今は函館の寂れた団地で余生を過ごす男が、ひょんなキッカケで親に見捨てられた少年とひと夏を過ごす内に、
息子を失くした自身の過去と向き合うようになり、少年もまた彼との交流を経て少しずつ成長してゆくという物語。
で、もちろんその初老の元プロレスラーに扮しているのが猪木なんだけど、猪木云々については後に廻すとして、
映画としては、高齢化社会の“影”や、時代とともにどんどん稀薄になりつつある親子の関係などを描きながらも、
しかしいつの時代も変わらぬ孤独だからこその人の絆を描いてそこに希望を託さんとしているのはわかるものの、
反面、少年と母親、もしくは父親との絆の再生が、かなりご都合主義的だったりするなど、どこか甘い部分も多く、
テーマがすべて未消化なままハッピーエンドにしているような気がして決して成功作とは思えなかったのが本音。

演出に際立った個性も感じられず、100分ぐらいの話なのにヤケに長ったらしく途中退屈してしまったのも事実だ。
しかし、それでも、ボクがこの映画を否定する気にはなれないのは、やっぱりそれが本作のウリということなのか、
白髪も味わい深い猪木の異形な存在感が映画にある種ファンタジーのような趣きを与え、時に苦笑はしながらも、
その鈍重なるセリフ廻しがフシギなテンポを醸して退屈とはいいつつ最後の最後まで妙に惹き付けられたからだ。
プロレスラーの孤独を、やや斜方からとはいえここまでシリアスに描いた映画というのも邦画では珍しいハズだし、
ちゃんと“闘魂ビンタ”もあるなど猪木の映画をマジメに撮ったという意味では作者の姿勢には相当好感が持てる。
それに、ボクも小さい頃は毎日のように家でも学校でも“プロレスごっこ”をしていたモンだけど、そんなプロレスが、
昔はコミュニケーションのツールになっていたよネ…みたいな問いかけに、ヤケに心をくすぐられてしまったんだな。


さすが函館に並々ならない想いを抱く作者らしく、街の各所を優しく捉えた映像には素直に心癒されたりもしたし、
とにかく、心を広く持てる元気な時におススメの映画です。そう!「元気があれば、なんでも観れる!」
一方、上記 『ACACIA-アカシア-』 とはジャンルも方向性も映画の仕上がりも全っ然違うんだけど、ただ1点のみ、
その昔はエンターテイナーとして隆盛を極めたのに今は初老を迎えて人生に疲れてる男が、ある出逢いによって、
心を再生させる姿を描いているところで相通ずるといえば言えなくもない、だけどとにかくよかったって映画があり、
それが長らく“無冠の名優”と言われていたジェフ・ブリッジスがついに今年オスカーをとったことでも話題となった、
『クレイジー・ハート』! これまた地味な印象だし、案の定、劇場は年配ばっかだったんだけど、そんで観逃したら、
これはマジで損をする映画。元気ないし、もう人生疲れちゃったし…という時に観たら100%元気が出る映画です!



とにかく本作は、ブリッジスがオスカーやゴールデングローブなんゾ当たり前というくらい渋カッコよすぎる映画で、
彼が演じるのは、かつては一世を風靡しつつも今や落ちぶれ果てて地方のボーリング場などをドサ廻りしながら、
年増のファンに節操もなく手を出しているという、ダメ人間なカントリー・シンガー。オマケに今やドが付くアル中で、
いつも“カルーアミルク”ならぬ(ブリッジスといえば)、マクルーアって(架空の銘柄だって)酒を呑んでいるんだけど、
そんな彼が、ある日、バツイチで4歳の子がいる地方紙の女性記者と出逢って恋に落ち、デートを重ねてゆく内に、
少しずつ、長らく眠っていた“クレイジー・ハート(荒ぶる魂)”に希望を漲らせてゆくという……。しかしそこはアル中、
骨の髄まで沁みついた、ダメ人間根性がすぐに治るワケもなく、自分より売れてしまった弟子との確執があったり、
挙句はただでさえ男不信の気があるカノジョを激怒させるような決定的大失態を犯したりと人生はウマくいかない。

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だけどそこがこの映画の素晴らしいところで、要所でそのまま悲劇へと突っ込みそうなエピソードを配しながらも、
そうはさせずそれがあってのリアルな希望という風に話を持ってゆくからラストはまるで突き抜ける青空のような、
ホント清々しい気持になれるんだな。観た後こんなに温かく爽やかな気分に浸れる映画なんて久々な気がする!
そして、全篇を彩るカントリーの数々が抜群に効果を発揮しており、実際歌っているブリッジスの声がまたいいし、
カントリーなんてそれこそ映画でしか聴いたことないけど、本作はちゃんとその真髄を描いてるんじゃなかろうか?
弟子の歌手役でコチラも実際に歌うコリン・ファレルも憎らしいほど巧けりゃ(歌も芝居も)、主人公の友人を演じる、
ロバート・デュヴァルも泣かせるし、なによりボクはこの映画で初めてマギー・ギレンホールをいい女だと思ったよ。
主演男優賞と主題歌賞受賞は当然だけど、これが作品賞にノミネートもされなかったなんて本当に信じられない。


とにかく! 胸に沁み入る大人のドラマに音楽の魅力と、“アメリカ映画の良心的側面”を感じさせる必見の傑作!
高い空、長くつづく道、歌、酒、安いモーテル…こんな映画を観ると、アメリカって国に憧れてしまうんだよね……。
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というワケで新宿なら同じ建物、月か水なら一方1000円で観られるので上記2作、次の休みにいかがでしょうか!
あ~余裕があったら 『クレイジー・ハート』 のサントラ買いたかったな。そして 『ACACIA-アカシア-』 の主題歌は、
持田香織が歌っているんだけど、やはり“辻仁成”ということでボクは劇中何度も何度も冒頭に挙げたECHOESの、
「ONEWAY RADIO」を想い出し心で口ずさんでしまった(映画がツマラなかったからじゃないよ)。それじゃあ最後に、
その大名曲を、どーゾ。これ聴いて、「泣かないように、負けないように、いい夢を、見るんだよ」



 眠れない夜空を抱いて ちっぽけな悩みかかえて
 ラジオにそっと耳を傾ける
 いつだって僕はリスナーで 君の話聞いているだけさ
 誰かに言いたい事もあるのに

 今夜こそは ラジオと話したい
 今夜こそは 僕の話も聞いてよ DJ

 S.O.S.を送り続けた あてのないSweet generation
 一度も読まれたことのないOneway card
 誰にも言えない秘密 もしも君に聞いてもらえたら
 誓って僕は逃げたりしない

 今夜こそは ラジオと話したい
 今夜こそは 僕の話も聞いてよ DJ

 RADIO 聞こえているか RADIO 僕らの声が
 孤独なメッセージ
 RADIO 聞こえているか RADIO 僕らの声が
 孤独なメッセージ

 今夜こそは ラジオと話したい
 今夜こそは 僕の話も聞いてよ DJ

 RADIO 聞こえているか RADIO 僕らの声が
 孤独なメッセージ
 RADIO 聞こえているか RADIO 僕らの声が
 孤独なメッセージ



『ACACIA-アカシア-』
角川シネマ新宿ヒューマントラストシネマ有楽町 にて公開中 ]
『クレイジー・ハート』
シネマート新宿TOHOシネマズ シャンテ(日比谷) にて公開中 ]