今年はフィルメックス9日間7本勝負! 「第12回東京フィルメックス」

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それに加えて、新作を3本、旧作を2本、イベントに行って短篇を5本観たのでもうここまでくると何がなんだか……。
なので忘れない内にまとめなくては! というワケで例年以上に盛り上がった今年の「第12回東京フィルメックス」
最初に観たのはどん詰まりになって上映が決定した中国映画、『人山人海〈れんしゃんれんはい〉』。中国南部の、
貴州に住む男が弟を殺した犯人を追い都市や山村の裏街道を迷走するというハードボイルド・タッチのサスペンス。
冒頭の殺人シーンの乾いた質感が素晴らしく、追跡劇の背景に大都市のスラムや犯罪者ばかりの違法炭鉱など、
中国が経済発展の裏でひた隠ししている負の現実が生々しく緊張感満点に描かれていて、グイグイ見せてくれる。
クライマックスは呆気にとられること間違いなしだけど、そこには何か、中国を内側からブッ壊す!とでも言うような、
異様な気概に充ちていて観終えた後は妙に爽快。傑作とは思わぬまでもアナーキーな怪作って趣きの1本だった。



2本目はイラン映画 『グッドバイ』。イランにおける女性の生きづらさを淡々と描いたこれまたハードな社会派ドラマ。
ヒロインは、首都テヘランに暮らす女性弁護士のヌーラ。ジャーナリストの夫は地方に身を隠しており、彼女もまた、
夫を捜している当局から目をつけられている。妊娠がわかって、弁護士資格を剥奪され(!)、夫とは連絡も取れず、
ヌーラは意を決して海外へ出国しようとするんだけど、あらゆる困難が立ちはだかり焦燥は募る一方。やがて……。
とにかくシンプルだけど密度の高い演出がヒロインの息苦しさをリアルに伝えてきてコチラまで息が詰まってきそう。
変に絶望を煽る作為的なイヤラしさがあるワケじゃないし、レベルは高いと思うんだけど、正直、観ていて辛かった。
因みに、ボクがかつてアチコチ海外を旅した中で、ビザを取るのにいちばん時間を要したのが、やはりイランだった。
当時はハタミ政権だったからまだよかったけど、今往くと街の雰囲気もまた違うんだろうね。映画祭ならではの1本。



3本目は、来春の劇場公開が決まっている、ハンガリーの巨匠、タル・ベーラ監督“最後の作品”、『ニーチェの馬』
これは本当に凄かった。もうド頭の戦争映画のスペクタクルをも凌駕せんような長廻しにザァーっと鳥肌が立ったら、
2時間34分は絶対に長くない。『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(’00)は意味不明で観てる間中ほとんど寝てたし、
『倫敦から来た男』(’07)も所詮シネフィルが騒ぐだけの映画と思ったけど、本作にはもっと大きな意義があると思う。
それこそボクたちにとっては3.11の前と後とじゃ印象もまったく違ったであろう作品だ。今までのような難解さがなく、
それだけに、作者の世界に対する諦念や孤独がダイレクトに伝わって切ない気分になるのは必定ながら、ラストの、
「食べるしかない」のひと言で、急に胸がグっと熱くなる。そう、食べてくしかないんだ。タル・ベーラ監督を見るのは、
2003年の「ハンガリー映画祭」以来だけど、観客の質問に真摯に応じる姿にまたグっときた。この爺は信用できる!



そしてつづけて観たのが4本目、韓国映画 『豊山犬〈ぷんさんけん〉』。で、コレすごく評判高いし、それを受けてか、
劇場公開も決まったらしいんだが、ボクは全然、ダメだった(面白いと言われるのはわかる)。マズひと言も喋らない、
寡黙な男と、ベラベラ喋るややヒステリックな女という組み合わせにもういい加減ウンザリだし、南北朝鮮の国境を、
自在に往来しては密輸品“その他”を運ぶ男と、彼が脱北させた韓国に住む元北朝鮮高官の愛人とのメロドラマも、
いかにも取って付けたような…というか、ボクには陳腐に思え愛憎の三角関係も「またかよ」って感じで白ける一方。
キム・ギドク監督の助監を務めていたらしい、チョン・ジェホン監督の演出も、話を転がすだけで精一杯って感じだし、
なによりもうギドク印の脚本が言いたいことがアリアリでイヤラしすぎる。去年の 『ビー・デビル』 の監督然りだけど、
ギドク門下生はもうチョットな。チャン・フン監督は、ギドクから離れて 『義兄弟』 を撮って正解だったとボクは思うよ!

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気を取り直しての5本目は、今回の目玉の一つ「ニコラス・レイ生誕百年記念上映」! まぁニコラス・レイといっても、
『理由なき反抗』(’55)以外は 『孤独な場所で』(’50)と 『暗黒街の女』(’58)が好きという程度でさほど詳しくはなく、
この 『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』 という“幻の1本”にしても実は今回初めてその存在を知ったんだけど、
これは晩年、大学の映画学科に招かれたレイが学生たちと共に撮った劇映画で、あまりにも内容が先鋭的にすぎ、
ブッ飛んでいるため、1973年のカンヌ映画祭で上映されて以来、語り草になってきた超曰く付きの1本なんだという。
で、明確なストーリーを持たず、いったいドラマなのかドキュメンタリーなのかデタラメなアートなのか判然ともしない、
とにかくフリーハンドで思いつくままに描き殴った色彩画みたいな内容は40年が経った今観てもまるで意味不明で、
93分眼前に繰り広げられる寺山修司も裸足で逃げ出す超アヴァンギャルドな世界にただただクラクラとするばかり!

誰も言わんだろうけど、ハッキリいってコレ、ボクにはレイが学生たちとハッパをキメキメ創った作品にしか思えない。
しかし、じゃあ素面だったらまったくツマラない映画なのかといえば決してそんなワケでもなく(決めつけてますけど)、
なんだかよくわからないけどとにかくこれまで幻と言われ続けてきた映画を“目撃”しているという、ただそれだけで、
観ている間はソワソワ気が昂ぶっていたし、当時の政治的状況を捉えんとするドキュメンタリー的作風が、しだいに、
学生たちの内面を描いた“ような”作風に変化してゆくあたりは何か連合赤軍がたどった過程とダブる印象もあって、
なにより、なんでそんな展開になるのかはやっぱりよくわからないんだけれどレイが納屋で自殺しようとする場面で、
梁にロープを結わおうとしても上手くできず、そこで彼が「西部劇を10本撮ってもロープも結べない」と呟いた時には、
思わず噴き出してしまい、観終えた頃にはアラ不思議、この幻の映画に対し、なんとも言えない愛着が湧いていた。

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そして6本目に観た、『あまり期待するな』 は、レイの奥さんであり、『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』 はじめ、
彼の最晩年の企画に深く携わっていたというスーザン・レイが、未発表のレアなメイキング映像やら当時のスタッフ、
キャストの証言を集めて撮り上げたまさしく 『ウィ・キャント~』 のテクストと言うべき興味深い1本に仕上がっていて、
かつそれ以上に、稀代の巨匠の知られざる一面を描いた、魅力的な人間ドキュメントにもなっているからタマらない。
その上、当のスーザン・レイがゲストに招かれニコラス・レイについて様々語ってくれるなど、本当にスゴい夜だった。
“ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン=ボクたちはもう帰れない”。この言葉はもしかしたら…映画に取り憑かれた、
すべての人間に当てハマる言葉なのかもしれない。今回のフィルメックスは気合を入れてチケットを取ったんだけど、
7本とはいえ、ホント大満足の9日間だった。そしてラストにこの傑作を観て、もう“帰れなくてもいい”と心から思った。



『奪命金』! タル・ベーラも信用できるし、ニコラス・レイももちろん信用できる監督だったハズだけど、サラにボクら、
すべての映画好きが今最も心から信用できる監督の1人がこのお方、ご存知、御大ジョニー・トー師父ということで、
上映前の完全セルフ撮りビデオメッセージも場内大爆笑だったそんなトー師父の最新作は、ギリシャに端を発する、
昨今の経済危機の狂乱を背景に、ノルマが達成できずに行き詰った女性銀行員、義理人情に忠実すぎるチンピラ、
そして妻にマンションの購入を迫られている刑事の3人のある1日のドラマを、それはもう見事としか言いようがない、
手練手管の職人技であたかも活劇の如き快感と昂奮が漲る群像劇に仕上げた大傑作! あ~本当に面白かった!
クロージング作品だけに、劇場も大入り超満員! デジタルとかフィルムとかミニシアターの運命とか関係あるかい!
映画好きである以上コッチは面白い映画を追いかけてくしかないんだ。というワケで、今年のフィルメックスは以上!

「第12回東京フィルメックス」[11月19日(土)-27日(日)]
『人山人海〈れんしゃんれんはい〉』(2011年・中国=香港/カラー/91分)
【監督】ツァイ・シャンジュン
【5段階評価】★★★1/2☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ日劇

『グッドバイ』(2011年・イラン/カラー/104分)
【監督】モハマド・ラスロフ
【5段階評価】★★★1/2☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ日劇

『ニーチェの馬』(2011年・ハンガリー=フランス=スイス=ドイツ/モノクロ/134分)
【監督】タル・ベーラ( 『ヴェルクマイスター・ハーモニー』 『倫敦から来た男』 )
【配給】ビターズ・エンド
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】有楽町朝日ホール

『豊山犬〈ぷんさんけん〉』(2011年・韓国/カラー/121分)
【監督】チョン・ジェホン
【配給】マクザム
【5段階評価】★★☆☆☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ日劇

『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』(1973-2011・アメリカ/カラー/93分)
【監督】ニコラス・レイ( 『孤独な場所で』 『理由なき反抗』 『暗黒街の女』 )
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】有楽町朝日ホール

『あまり期待するな』(2011年・アメリカ/カラー/70分)
【監督】スーザン・レイ
【5段階評価】★★★1/2☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ日劇

『奪命金】(2011年・香港=中国/カラー/107分)
【監督】ジョニー・トー
【5段階評価】★★★★★
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ日劇

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『柔道龍虎房』(2004)
『ブレイキング・ニュース』(2004)
『イエスタデイ、ワンスモア』(2004)
『エレクション』(2005)
『エグザイル/絆』(2006)
『MAD探偵 7人の容疑者』(2007)
『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009)