エイゼンシュテイン・シネクラブって、知ってる? 『ジェシーを狙うのは誰だ?』

ボクも名前だけは聞いたことがあったんだけど、「エイゼンシュテイン・シネクラブ」とはその名の通り、世界的巨匠、
セルゲイ・エイゼンシュテイン(1898-1948)の作品と理論の研究を“基本”としている学会の名。で、その定例会が、
今回で数えてなんと228回目というのだから相当歴史が古いんだけど、12月は「東欧ファンタスチカの魅力」と題し、
「時間はだれも待ってくれない―21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」という本の編者の、高野史緒さんを講師に、
東欧のSFやファンタジーの魅力を知りつつかなりレアらしいチェコのSF映画を上映するという企画だったものだから、
このブログを通じて知り合った、そして会に深く関わっているドキュメンタリー作家の金子サトシ監督が誘ってくれて、
それで急遽ほかの映画をやめて出かけることにしたしだい。東欧やチェコと聞いて観に行かないワケにはいかんよ。
会場は、東京ドームの近くにある文京シビックセンター。ここは時々上映会をやっているが、行くのはこれが初めて。

で、上映会といえば、そりゃ当然、フツーの映画館とは違うだろうけどいかにも映画を観る感じでイスが並んでいて、
講師を前に話を聴くんだろうなと思っていたら、会議室に入るとホントの会議みたくテーブルが口の字に並んでおり、
入口で料金を払うと「どうぞどうぞ」と何やら中国のお菓子をススメられるなど上映会というよりは“勉強会”って感じ。
へぇ~!と、新たな世界に感嘆しながら、先に来ていた金子監督に、今度の映画祭の内容を説明したりしていると、
どうやら人数は16、7人でマックスみたいで会はほぼ定刻通りにスタート。中には映画祭のイベントでお世話になる、
ピアニストで無声映画伴奏家の柳下美恵さんもいらっしゃっていて、いや~こないだの高円寺の油野美術館といい、
今回といい、いろんなトコで、いろんなコトを、やっているものなんですね。高野さんの東欧の話題も興味深かったし、
映画がまた、最高に面白くって、自分の世界がまた一つ拡がるような、そんなひと晩だった。ありがとう、金子監督。

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その映画というのは、まだまだ“東西冷戦”真っ只中の1966年に製作された、『ジェシーを狙うのは誰だ?』 という、
なんとも珍しいチェコスロバキアのSFコメディ。これが国内じゃDVDはおろか字幕付きで御披露目をされたのだって、
2010年の日本SF大会ぐらいだという、なにしろマニアックな一品。そして観ればなぁ~んでこれほど面白い映画が、
映画館にかかったこともなければDVDにもなっていないのかとフシギに思うほどの傑作で、ホンっト観れてよかった。
ベラーネク夫妻は、大学で“夢を健全化”するという研究をつづけている科学者夫婦。ある日奥さんが実験に成功し、
見事、ハエに集られる夢を見て苦しんでいる牛に開発した薬を注射して、夢からハエを取り除く。一方、旦那さんは、
研究室においてあったあるマンガ雑誌を読むのに夢中だ。その内容はいかにもアメコミっぽい金髪の巨乳ちゃんが、
ガンマンとスーパーマンに追い廻されるというものだった。夫婦のアレを嫌がりベッドでもマンガを読むベラーネク氏。

夜中、氏が何やら寝言を言っているので、奥さんが開発した機械で夢を覗くと、なんとマンガのヒロイン・ジェシーを、
氏が悪漢より助け出しヨロシクやっている最中だった。嫉妬した奥さんは彼に思わず注射して夢の健全化を図るが、
実はその注射には取り除いた夢の内容を具象化するという副作用があり、夫妻が次の朝目醒めると、部屋の中に、
ジェシーと、ガンマンと、スーパーマンの実写化がいた。そこから街中を巻き込んでドタバタの大騒動が始まる……。
もう冒頭の牛の夢の件からゆるーいギャグの連続で(健全化すると牛が気持好さげにハンモックに揺られている!)、
楽しいのは、実写となってもジェシーたちだけはいわゆる“吹き出し”で話すこと。レトロでB級な特撮物の味わいや、
体制の重い空気を感じさせない60年代プラハのお洒落な街並みなど、とにかく全篇センスがよくて、これ90年代に、
渋谷の単館あたりで公開していたら、相当ヒットしたんだろうなぁ~と思うぐらいホント上手に創られている。びっくり。

マンガが、思いっきりアメコミで(書いたのはチェコの作家)、そこに、当時のアメリカ文化への憧れを匂わせながらも、
ガンマンやスーパーマンを悪者にすることで巧くバランスを取っていたり、見た目はおバカなんだけどすごい知性的。
奥さんがスーパーマンに惚れて夢の中まで追いかけてゆくクライマックスなんか大爆笑だし、奥さんがいなくなって、
晴れてベラーネクがジェシーと結ばれそこで初めて彼女が肉声を発するラストなんてホンっト小粋。夢のような81分。
ジェシー役の女のコもエロ可愛くって最高なら、個人的には現代チェコ映画の大傑作 『プラハ!』 を想い出しもした。
本当にただでさえ好きなのにサラにチェコを好きになってしまう観れたことが僥倖としか言いようのない1本だったよ。
は~オレもいそっち(磯山さやか)とか原幹恵とヨロシクやってる夢を見ている時にブスッと注射してもらいてぇなぁ~。
…とは、さすがにマジメな人ばかり集う会合だったから誰にも語らずヒッソリと胸に留めて代わりに小さく拍手をした。

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上映後には会の忘年会を兼ねた懇親会もあったのでせっかくだしとソチラへも参加し、会の副代表の井上さんやら、
高野さんといろいろお話したんだけど、これがまた今までこんなに東欧やバルト三国の話をしたことはないってほど、
それこそこのブログに旅の想い出話を書く時ぐらいの気持でいろんな話ができて、いやぁ~ホント勉強になりました。
やっぱりボクは、北欧より東欧の方が好きなのだよ。(あ、書いちゃった) あまりエイゼンシュテインに詳しくないから、
会を発足させた、映画評論家・山田和夫さんの本を読んで勉強しよっかな? 帰りの大江戸線で一緒だった奥様は、
とても優しい方でした。エイゼンシュテイン・シネクラブ、基本毎月開催で参加は自由だそうなので、よかったらぜひ。

エイゼンシュテイン・シネクラブ(日本) 2011年12月例会
「東欧ファンタスチカの魅力」[12月17日(土)]@文京シビックセンター(春日) 4階会議室A(シルバーセンター内)
『ジェシーを狙うのは誰だ?』(1966年・チェコスロバキア/モノクロ/81分)
【監督】ヴァーツラフ・ヴォルリーチェク
【出演】オルガ・ショベロヴァー
【5段階評価】★★★★★
【鑑賞料金】1,200円(当日会員)