今年のフィルメックス作品賞はフィリピンのワニ映画! 「第15回東京フィルメックス」

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ちょっと意外。“ワニ映画”という表現は非常に人に誤解を与えると思うんだがしかしとにかくワニが出ると聞き、
“人間と伝説の人喰いワニが戦う映画”だと思って塚本晋也やクローネンバーグよりも気になって観に行ったら、
なんか、全然違っちゃったなぁ~(ある意味、当然)という映画がよもや作品賞を受賞するとは思わなかったので。
しかし全然違っちゃったけどそれでもこの作品はワニ映画(あとサメ映画やヘビ映画)好きは必見の1本だと思う。
なぜなら劇中で少女がワニに襲われるシーンがあまりに怖く衝撃的すぎてド胆を抜かれること必至だからだ…。
フツー娯楽もののワニ映画だったら人間がワニに襲われる時には直前にいかにも来るぞォ~来るぞォ~という、
煽りがあるけど本作はいきなりガブッ!で襲われるのがいたいけな少女ということもありその衝撃性はひとしお。
ああいう場所で人間がワニに襲われるのってホントにあんな感じかもと思わせる凄まじいリアリティがあるのだ。



というワケで先日閉幕した今年の東京フィルメックスで作品賞を受賞したのはフィリピン映画の 『クロコダイル』。
フィリピン南部の南アグサン地方にある湿地帯で女の子がワニに襲われるという実際に起きた痛ましい事件を、
再現ドラマに実際に事件で娘を亡くした母親へのインタビュー等を交えながら描いた風変わりなドキュ・ドラマだ。
なにしろ、肝心のシーンのインパクトが大きければ空撮によって湿地帯をダイナミックに捉えた映像も素晴らしく、
元々映画大国ながら近年隆盛目ざましいフィリピン映画の力量を知る上でも価値のある1本になっていると思う。
ただし、いかにも台風の被害に遭いそうなフィリピンの田舎の問題を捉えた社会派というにはパンチに欠けるし、
人間と自然の共生の寓話というにもやや中途半端だから全体的にはもう一つというのがあくまでボクの印象…。
後半にもものすごく緊張感の漂うシーン(ワニ映画らしい!)があるのでそれをもっと全体に伸ばしてほしかった。

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この母親の表情の先には巨大なワニがいます!



『クロコダイル』 もまぁ悪くはないけどそれよりボクが心を打たれたのは中東の3ヵ国とイギリスによる合作映画、
『ディーブ』。第一次大戦中のオスマン帝国支配下のアラビア半島の砂漠地帯を舞台にした映画ということから、
てっきり、歴史ものかと思っていればおそろしく澄んだ瞳の少年が主人公の手に汗握るサバイバル活劇だった!
ベドウィンと呼ばれる遊牧民の少年が英国人将校から道案内を頼まれた兄の後ろにくっつき旅に出るんだけど、
途中謎の暗殺集団の襲撃を受け将校どころかお兄さんまで殺され彼は砂漠にたった1人取り残されてしまう…。
と思ったら、兄の銃弾を喰らった手負いの敵が1人いてそこから2人の緊張感に充ち充ちたサバイバルが始まり、
映画はアラビアの大荒野を舞台にした西部劇さながら少年が“男になる”孤高のラストへ観る者を誘ってゆく…。
なにしろ砂漠の景観を捉えたダイナミックな映像や夜襲のシーンの緊張感が凄くてこれぞ今回のボクのベスト!

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初監督&役者ほぼ素人でこのクオリティは凄い!



まぁ、ベストっつったってたった3本しか観ずに言うのもなんだけどしかし最後に観た韓国映画の 『扉の少女』 も、
これまた初の長篇とは思えない女性監督による秀作だったから今年のフィルメックスはホントに実が詰まってた。
めでたく配給も決まっている本作はある理由でクソ田舎の港町に飛ばされてきたペ・ドゥナ演じる女性警察官と、
その町で日々養父と祖母から虐待を受けながら生きているキム・セロン演じる少女との心の交感を描いた物語。
個人的には(というより、ほとんどの人がそうだったと思うけど)今や韓国映画を代表する世界的女優ペ・ドゥナと、
幼くして 『冬の小鳥』『アジョシ』 の2大傑作を代表作に持つキム・セロンの初競演(か?)という部分に釣られ、
ちょっとしたおトク感だけで観に行ったんだけど本作はそんな客の期待通り2人の魅力を最大限に活かしながら、
それ以上に、ヘビーな社会的テーマや社会より弾かれた2人の女性のドラマを繊細に描いており実に好感度大。

ハッキリ言って日本の比じゃないに違いないDVやセクシャル・マイノリティ差別や外国人の不法就労問題という、
もしも監督が違っていたらヘビーすぎて吐いていたかもしれないような韓国の社会的暗部を容赦なく晒しつつも、
女性監督らしい肌理細かな描き方にはどこか“余白”も感じられそれがきっと本作の余韻が優しく柔らかな原因。
態のいい決着を観客に与えない(でも、それが不快じゃない)ラストも師匠のイ・チャンドン監督直伝のものだろう。
ドゥナとセロンの被虐的な役柄を演じさせたら右に出る者なし同士の対決はもちろんドゥナの婦警コスプレほか、
入浴シーンや水着シーンというサービスショットもヤケに豊富でドラマもいいし女優を愉しむ映画としても上デキ。
男性だけじゃなく女性監督も続々とこんな力のある人が出てくるんだから韓国映画の層の厚さは本当に驚異的。
たった3本だけど充実していた今年のフィルメックス! 大絶賛だったらしい塚本晋也監督の 『野火』 も愉しみだ。

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ボクもペ・ドゥナお巡りさんに手錠かけられたい!

「第15回東京フィルメックス」
[11月22日(土)-30日(日)]@有楽町朝日ホールTOHOシネマズ日劇ヒューマントラストシネマ有楽町
『クロコダイル』(2014年・フィリピン/カラー/88分)
【監督】フランシス・セイビヤー・パション
【出演】アンジェリ・バヤニ
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】有楽町朝日ホール
【鑑賞料金】1,000円(平日限定早割)

『ディーブ』(2014年・ヨルダン=U.A.E.=カタール=イギリス/カラー/97分)
【監督】ナジ・アブヌワール
【出演】Jacir Eid Al-Hwietat、Jack Fox
【5段階評価】★★★★★
【鑑賞劇場】同上
【鑑賞料金】同上

『扉の少女』(2014年・韓国/カラー/119分)
【監督】チョン・ジュリ
【出演】ペ・ドゥナ、キム・セロン
【配給】CJ Entertainment Japan
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ日劇3
【鑑賞料金】1,300円(前売券)