瓶詰めの映画地獄 2009

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help リーダーに追加 RSS これが、ブラックシネマの原典! 『スウィート・スウィートバック』&『バッドアス!』

<<   作成日時 : 2005/10/09 06:25   >>

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画像“ブラックスプロイテーション映画”。
と言っても多くの人にはピンとこないに違いないけど、
要するにこれは、
「Black」と「Exploitation film(娯楽映画)」の造語で、
主に70年代前半に流行した、黒人の観客のために
黒人が作った黒人向け娯楽映画群の一般的な呼称。
代表的とされる作品には、『黒いジャガー』(1971)、
『スーパーフライ』(1972)、『Coffy』(1973)などがあり、
実はかく言うボクもこれぐらいしか観てないんだけど、
そう言えば2年前の夏に銀座シネパトスで公開され、
ヒットしなかったわりにレンタルではやけに回転率が
今でも高いのできっと観たという人も多いに違いない
『アンダーカバー・ブラザー』 なんかはその流れ。
そして、そんなブラックスプロイテーションに傾倒し、
ついにはそのディーバ的な存在だったパム・グリアーを主演に 『ジャッキー・ブラウン』 を撮り上げ、
よせばいいのに「俺も黒人だぜっ!」みたいな態度をとってスパイク・リーに心底嫌われていたのが
タランティーノってわけ。

ボクにとってもこの世に生まれた時代である70年代前半と言えば、
アメリカはベトナム戦争のドロ沼に首まで浸かっていた、今や思い出すのも嫌であろう暗黒の時代。
国家そして社会全体が先の見えない疲弊感と倦怠感に覆われ、
白人社会そのものが“アメリカ”という巨大な幻想に失望してゆく一方だったのを尻目に、
それまで抑圧されてきた黒人社会が、その溜まりに溜まった怒りとエネルギーをバクハツさせ始め、
そうして時代は少しずつ変化していって今に至るわけだけど、だからと言って、
あのバカブッシュを再選させたのがアメリカの大半を占める保守層であったのを見ればわかるとおり、
いまだアメリカは、世界でいちばん差別が好きな国である。
『リーサル・ウェポン』 シリーズなどで知られる黒人俳優のダニー・グローヴァーは、
先の大型ハリケーン、“カトリーナ”被害に対するホワイトハウスのお粗末な対応を、
「ハリケーンが彼の地を第三世界に変えたのではない。もともと第三世界だったのを露呈させただけだ」
とスピーチして痛烈に批判したという。

とにかく70年代は、
映画、音楽、政治、スポーツと、あらゆるジャンルでブラックパワーが炸裂した時代だったんだけど、
さらに、このブログでは散々出てくる1978年の名作 『ゾンビ』(出たっ)。
あれ実はラストで助かるのが黒人と妊婦だってことを意識して観ていた人は果たしているだろうか?
そう、あのラストは、当時の世相をベースにして、
白人社会の終焉、ブラックパワーの台頭、そしてもうひとつの時代の潮流だった“ウーマン・リヴ”を
しっかり象徴させたものだったのだ。どう? 深いでしょ。
そして、同時期に製作されたこれも映画史上の傑作SF、『エイリアン』 の主人公が女性であるという
設定も、同様に時代を反映させたものだったのである。
映画はこういう風に観れば10倍、20倍とその面白さを増すという好例だ。

で、話は戻り、一般社会以上に旧態依然としていた70年代初頭の映画業界に背を向け中指を立て、
ブラックパワーの社会的バクハツの予感を背中に感じながら、
その後のブラックスプロイテーション映画隆盛の礎となったまさしくブラックシネマの原典的傑作が、
今、渋谷のユーロスペースでレイトショー公開されている1971年の 『スウィート・スウィートバック』。
そして、“ゴッドファーザー・オブ・ブラックシネマ”としてスパイク・リーをはじめ多くの黒人たちから
今現在もリスペクトされ続けているその監督のメルヴィン・ヴァン・ピーブルズを偉大なる父に持つ、
『ニュー・ジャック・シティ』(1991) 『黒豹のバラード』(1993)、『ギャング・イン・ブルー』(1996)などの
活劇派、マリオ・ヴァン・ピーブルズが、
『スウィート・スウィートバック』 製作当時の様子をドキュメンタリー風のドラマに仕立て上げたのが、
同じく渋谷のシネセゾンでこれも現在レイトショー公開されている 『バッドアス!』。

『スウィート〜』 のストーリーは極めて明快だ。
白人警官が捜査する殺人事件の容疑者に仕立て上げられた黒人青年のスウィートバックが、
連行中にその警官ふたりを殴り殺し、ひたすら逃げる、そして逃げ切る。ただそれだけ。
セックスとバイオレンスが盛りだくさんのハードな内容ながら悲愴感は微塵もなく、
メルヴィン自身が演じたスウィートバックの人物的特色はただひとつ、“性豪”(笑)。
その手のシーンでは1回1回しっかり“挿入”していたというのは本人の弁。多分本当の話だと思う。
前衛的なカット、先駆的な配色、白人社会を完璧にナメ切ったセリフとメッセージのオンパレード。
師と仰ぐわりに自分の映画はやたらと感傷的で湿気っぽいスパイク・リーとは大違いの痛快さだ。
「必ず復讐する」のメッセージどおり、この映画のラストから、ブラックシネマの大躍進は始まってゆく。
そして、完全自主制作、大きな借金を抱えたままそれでもたったの20日で撮影を終えたこの映画の
製作過程を、多感な少年期にいちばん近くでつぶさに見ていた息子マリオも、
今回は大手を離れ、父と同じく完全自主制作、
しかも自分自身で父を演じて当時の現場の奔走ぶりを再現する(写真はメルヴィンに扮したマリオ)。
『バッドアス!』 の見どころは、
出資者逮捕による投資の中止、女優のドタキャン、クルーの逮捕、視力の低下、増え続ける借金と、
とにかくトラブルと不幸の連続だった現場を描いた前半部はもちろんのこと、
紆余曲折を経てやっと出来上がった映画が全米公開たったの2館で始まり、
しかしそれが黒人観客が映画館の前に列をなすほど盛り上がるに至るまでを描いた後半の部分。
父親と違ってどこかに育ちの良さを感じさせてしまうマリオの作劇にはもうひとつ緊迫感も欠けるが、
逆にそのやわらかさが、
黒人社会の白人社会に対する徹底的なアンチテーゼだった 『スウィート〜』 のテーマを普遍的な
レベルにまで押し拡げ、
「最後まで闘え! 夢を諦めるな!」という、どんな人種にも伝わる明快で温かなメッセージとなって
それはそれで悪くなくこちらの胸をグッと熱くさせてくれる。
鑑賞方法としては、まず 『スウィート〜』 を観て、その半券提示サービス1,000円で 『バッドアス!』、
そして仕上げにもう一度 『スウィート〜』 を観るというのがベストだと思う。
これなら新作映画2本分の料金で観られるハズだ。

最近気に入らないことがあって気分が滅入っている、そんな人にはぜひ観て拳を熱く握ってほしい、
そして、『バッドアス!』 のエンドロール終了後に出てくるメルヴィン本人のふてぶてしい面構えが、
「俺もいっちょやってやるかっ!」という気にさせてくれるエネルギッシュな傑作2本だ。

( 『スウィート・スウィートバック』 は ユーロスペース にて、『バッドアス!』 は シネセゾン渋谷 にて
ともにレイトショー公開中)

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