瓶詰めの映画地獄 2009

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help リーダーに追加 RSS ファンタジーは歪んだ現実の合わせ鏡… 『うつせみ』

<<   作成日時 : 2006/03/07 07:45   >>

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あれほど烈火の如く盛り上がった“韓流”ブームの渦中においても、
その流れにただの少しも呑み込まれなかったのがキム・ギドクの映画である。
静謐なまでに凶暴、グロテスクなまでに純粋。
映画の傷口から怒り、哀しみの感情がドロドロと膿み出てくるような濃厚なギドク・テイストが、
同じ濃厚でもブームが求めるそれと相容れることがなかったのは当然と言えばあまりに当然。
なによりギドクの映画には、“韓流マダム”たちの閉じた子宮をクイッと開帳するような、
イケメン俳優がただのひとりも出てこない。

だけど、どういう経緯からか、
その公開が長らく延期になっていたそんなギドクの最新作 『うつせみ』 は、
これまでの彼の作品群から感じられるような粗野な(いい意味で)イメージとはひと味違う、
決してなめらかではないが観る者の胸を心地好くくすぐるような(!)幸福感で充たされている。
それは喩えるなら、普段は粗暴極まりない男の一瞬の純情を、
思わず覗いてしまったときのようなうれしさと気恥ずかしさ。

滞りがちで退屈だった自分の日常に、ある日突然イケメンの美男子が現れ、
自分をこれまで知ることもなかったような非日常へと連れ出してくれる……。
そう! これこそ韓流マダムたちがついに夢見ていた世界の具現化とは言えないだろうか?
とは言うものの、そこは“曲者”ギドク映画である。
彼が本作で静かに描く夢か現実かわからないひと組の男女の道行きには、
現代社会の根底に潜む、
目を背けたくなるような歪んだ現実がキッチリと託し込められている……。

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 住人が留守中の家に忍び込んでは、
 そこで生活するという奇妙な毎日を送っている青年テソク(ジェヒ)が、
 夫の家庭内暴力に傷めつけられ家に閉じこもっていた人妻のソナ(イ・スンヨン)と出逢う。
 テソクは彼女を夫から奪い、パートナー同士となったふたりは家から家を転々としながら、
 誰にも邪魔することのできない固い絆で結ばれてゆくのだが……。

「ファンタジー」というのは有り体な言い方をすれば“現実逃避”だが、
それが意味するのは何も此処ではない“別世界”ばかりとは限らない。
“現実逃避”とはつまり目の前の現実と表裏一体の関係であり(当たり前のことだが)、
だから「ファンタジー」と呼ばれるものにはいつも、
そこへと至るキッカケになった歪んだ現実が濃淡の差はあれ必ず反映されている。

傍目には裕福で幸せそうに見える一般的韓国現代社会における家族の肖像、男女のカタチ。
その裏側に潜むそれぞれの真実を、
青年テソクはいつも独り静観している。彼は外側(非現実)の人間だ。
一方、傍目の裕福や幸せの裏側で、
此処ではないどこかを願って日々に喘いでいるのがソナ。彼女は内側(現実)の人間。
そんなふたりが透明なガラス1枚程度の現実と非現実との境い目で互いを見出す瞬間は、
どんな恋愛映画の“出逢い”のシーンよりも甘美で切なく体の芯が疼くかのよう。
そうして出逢ったふたりに無益な言葉など必要であろうはずがない。
ただ静かに互いを思いやり、見つめ合って、キスを交わし、寄り添うようにして眠る。
現代的な男と女の利害を超えた無垢な愛の姿がここにあるとは言いすぎか? ボクにはムリ。
ただひとつ、ソナはいつもどこか不安げな物憂い表情でテソクを見つめるときがある。
この別世界はいったいどこまでつづいているのかと……。彼女は現実側の人間だから。
しかし、テソクは動じない。
時おり現実側に足を踏み入れて戸惑い涙を見せるときもあるが、
彼は、非現実側の人間だから……。

ギドクは、従来どおり見え透いた視覚効果にいっさい頼ることなく、
光や影、画面に収められる超現実的な風景だけを使って映像に奥行きを与えてゆく。
そこにはきっと、『春夏秋冬そして春』 で得た“何か”が活かされているに違いない。
テソクとソナがひと言も言葉を交わさないという点では、
これは 『魚と寝る女』 の“現実寄り”別バージョンという言い方もできるかもしれない。
( 『魚と寝る女』 は、舞台そのものが人里離れた湖の上という一種幻想的な空間だった)
そんなギドクの独特の画面構築法は、
ボクにはタルコフスキーにさえ通じているような気がしてしょうがないのだが……。

彼独自の演出的呼吸法を体得してそれぞれに演じてみせるジェヒとスンヨンの恋愛模様を、
ヨン様とチェ・ジウ(もう古い?)のそれよりも美しいと思うのは何もボクだけじゃないハズだ。
甘美なハッピーエンドとも切ないアン・ハッピーエンドともとれる、
余白のあるラストは実に映画的で味わい深い。

ファンタジーを現実の“合わせ鏡”として見事に描いたまさにギドクの進化を告げる傑作。
早くも秋には公開される次回作 『弓』、
そして満を持して初公開される彼のデビュー作、『鰐』 も今から本当に待ち遠しい1本だ。

恵比寿ガーデンシネマ にて公開中 ]

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うつせみ@恵比寿ガーデンシネマ
若い男・テソクは空き巣に入り、留守の間だけそこで暮らしていた。そこで壊れたものを修理して、そこにあった洗濯されてないものを手洗いし、そこの人であろう写真をバックに自らを撮る。豪邸に忍び込んだ彼はいつもの所業を行なうが、その家の夫人・ソナがそこにいた。離れた ...続きを見る
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レザボアCATs
2007/02/08 04:22
ギドク流ファンタジー〜『うつせみ』
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2007/03/10 05:18
●韓国映画の真打ち発見!恐るべきはギドク宇宙!
色づかいの透明度といい、男の半生に視野を注ぐ老僧のそのまなざしといい、みづうみと思しき中に隔てられた正門と僧房の位置関係にも似た人生観照の距離を持って、繰り広げられる事件の相克といい、湖面にたたえられる深ぶかとした真実、その静謐な完成度には魅了されざるを得ない。 ...続きを見る
輝ける映画のときめき
2007/04/05 11:48

コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
ところで「エロかっこ悪い」って原生的な男の究極形のような気がしてなりません。
閉じた子宮をクイッと開帳するような…すんごい表現ですねw 見栄が第一のような恵比寿マダムが映画館にわんさかいて、「そんじょそこらの韓流好きオバハンとは違うのよ」という空気が蔓延してました。ギドクって中年女性ファンもかなりいるみたいですね。
それにしても美しかったです。現実と幻想の境目が曖昧なのは実世界でもまさしくそうなのであって、それをこうもストレートに、かつ耽美的に映し出す。ああもうすげぇなぁと感嘆するばかりでした。
『鰐』公開されるんですか? 知りませんでした。それは楽しみだ!!
現象
2006/03/11 13:37
私もこの映画で疼いたクチです。エヘッ。
匂い立つような2人の距離感、ふわふわした幸福感に、今なお余韻にどっぷりハマってます。女はみ〜んな、後ろからそぉっと抱きしめられるのが好きなんです!キム・ギドク映画はこれが初めてですが、他の作品も観てみたいと思ってます。

それにしても、今月もいっぱい映画観てますね、ホントすごいです。。。
先生!私はブログを始めてやく4ヶ月になりますが、このところ、ブログに向かう意欲が欠けてきました。観た映画の感動を書き続けることを目的として始めたのですが、どうしたら、コンスタントに書き続ける事ができるんですか?教えて下さい。
Ako
2006/03/22 01:16
こんにちは
確かにキム・ギドク作品は「韓流ブーム」とは一線を画していますね。世間がどう言おうと我が道を行くという、いわば「俺流」ですから。まあそんなスタンスが私も好きなのですが。

透明なガラス1枚程度の境目・・・良い表現ですね。
下手にそれを突き抜けようとすると、凶器(ガラスの破片)によって痛みを負わせられてしまう・・・ということでしょうか。テソクも、現実世界の人々も。
現実と幻想の境界を越えるために「透明人間」になってしまうアイデアも凄いですね。終盤は2人の「心中」と言えなくもないですが・・・それにしても美しかった。

伝統家屋に住む夫妻の穏やかさは「春夏秋冬〜」の雰囲気に似ているなと思いました。
朱雀門
URL
2006/05/14 14:56
うう〜ん、やっぱすごいな、栗さまの文は・・・
>そんなふたりが透明なガラス1枚程度の現実と非現実との境い目で互いを見出す瞬間
そうか、鏡はそんな風に捉えすべきだったのですね。。納得です。
そうですね、ここで描かれていたファンタジー。決して、ただ単に普通のファンタジーとは何かが違うな、という辺りから派生して、まだそのことを自分は考えていました。
>そこへと至るキッカケになった歪んだ現実が濃淡の差はあれ必ず反映されている
本当にその通りだと思います。だからこそ、合わせ鏡としてのファンタジーだったのか・・。うーん、なるほど。
とらねこ
2007/02/08 04:19
>とらねこさん、こんばんは。
そんなにいいこと書いてますワタシ?(笑)
何もCG多用して夢々しいばかりじゃなく、
非現実がすぐ隣で息を潜めている・・・、
そんな感覚がよかったと思う映画でした。思い出した。

なんか今思い返すと、M.ナイト・シャマランの、
『レディ・イン・ザ・ウォーター』 に近い気もするんですが、
誰も賛同しちゃくれないだろうなぁ・・・(苦笑)。
栗本 東樹
2007/02/09 20:49
栗本さま、こんにちは。連日お邪魔します。TBさせて下さいね。
ここだけの話、私冬ソナにハマリました。
まぁそんなことはどうでもいいですが(笑)、この映画はファンタジックでしたね。
寡黙青年もイケメンでしたし・・。イ・ビョンホンに似てるなぁと思いながら観ていました。
『弓』はまだ観れてないのですが、ギドクは今後もますます楽しみな映画作家ですね。
ではでは。
真紅
2007/03/10 05:51
>真紅さん、こんにちは。
そうですか、ハマってましたか(笑)。
確かに青年はビョン様系のイケメンでしたね。
ブ男揃い(?)のギドク映画にしては珍しいです。
俺は奥さんの微妙に地味な感じにソソられました。
『弓』 も面白かったですよ。
これからどんな作家になってくんですかね、楽しみです。
栗本 東樹
2007/03/10 09:26