瓶詰めの映画地獄 2009

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help リーダーに追加 RSS プーチンが柔道DVDを作っている裏で… 『チェチェンへ アレクサンドラの旅』&『懺悔』

<<   作成日時 : 2008/12/25 01:30   >>

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まるで出口の見えない世界金融危機の発端ということで今や大国アメリカもすっかりと元気をなくし、
そうすると煽りを喰っているのは同じとはいえ、鼻息が荒くなるのはやっぱりどこの国よりもロシアで、
(ロシア映画界も相当ダメージを受け多くの映画が製作中止、もしくは延期に追い込まれているという)
「誰がリーダーでも同じだ!」とオバマ氏に対しても未知数な分、警戒を強めているみたいなんだけど、
ところで、今のロシアの大統領って名前なんだっケ? 顔はなんとなく浮かぶんだけど、名前が一向に。
まァカゲも薄ければ所詮はプーチンの操り人形みたいな人だろうからずっと憶えられないとは思うけど、
そこでプーチンとはさすが策士は名前も憶えやすしあの冷たい“独裁者顔”もあまりに見事だなと思う。

本当はもっと読みにくい名前なんだけど浸透しやすいように改名したとかじゃ?なんて冗談はさておき、
しかし指導者たるもの何においても“わかりやすく”をウリにするのが一つの要みたいなところはあって、
たとえば国民の好感を得るよう巧みにメディアを利用する才能というのもかなり大事じゃないかと思うし、
小泉さんはそこが実に巧かった(プーチンは小泉さんがくれた“バウリンガル”をまだ持っているのか?)。
そんな中、プーチンと言えば柔道の有段者としても有名で本まで出しているぐらいということなんだけど、
本どころか最近は「ウラジミール・プーチンと柔道を学ぼう」なんて柔道の教則DVDまで出しているらしく、
どれだけ売れているのかは知らないがそれを見てロシアの子供たちが礼儀作法を学んでいるのだとか。

そのDVDには日本から山下泰裕と井上康生も出ているというからまたびっくりなんだけど、去年の今頃、
地味に公開されていた 『暗殺・リトビネンコ事件』 じゃないがロシア(=自分)に楯突くような一部の人を、
マジで何人、闇へ葬っているかわからないような(少なくともそうした噂のある)人に礼儀とか教えられて、
まぁ政治と柔道は関係ないとは言えそれで子供らがプーチンを尊敬しているというのだからチョット怖い。
やっぱりプーチンは巧いな、と思うしそれなら今度は釣りのDVDを作ったらいいんじゃないのか?観たい。
チェチェン共和国の首都グロズヌイの目抜き通りの名前は“プーチン大通り”に変えてしまったとかいうし、
柔道やるくらいでまだまだ若いし目指す「強いロシア」がその内「怖いロシア」にならなきゃいいけど……。

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しかし、いかにプーチンが中央集権を進めてロシア全体を巧く治めているからといって、やはり国内には、
彼の政治手法に批判的な人も多いハズで 『リトビネンコ事件』 はその一端をうかがえる映画だったけど、
夏にやっていた、『12人の怒れる男』 も表向きはハリウッドの古典名画のリメイクという体裁をとりながら、
その実、なかなか巧い具合にチェチェン人への人権侵害を痛烈に批判していて観応えのある力作だった。
そしてこの、昭和天皇を描いた 『太陽』 で一躍日本でも名が知られるようになったロシアを代表する作家、
巨匠アレクサンドル・ソクーロフ監督の新作、『チェチェンへ アレクサンドラの旅』 という1本もまた、一見は、
1人の老婆と、グロズヌイのロシア軍駐屯地で働く兵士たちとの交流をドラマ的に描くという体をとりながら、
その芯で今のロシアのあり方に一石を投じつつ戦争の愚かさを訴えたこれまた見事なデキ映えの秀作だ。

足腰の弱いばあさんが、要は紛争地域の最前線までオイソレと出かけるなんて設定にマズ驚くんだけど、
しかし、家族が戦地に勤務する身内を訪ねるというのは実はロシアじゃそんなに珍しいことでもないらしく、
映画はアレクサンドラという1人の老女が駐屯地へ大尉として赴任している孫の元を列車に乗って訪ねて、
そしてそこで、若い兵士たちや現地のチェチェン人女性らと戦争という現実を超えて触れ合ってゆく様子を、
至極ゆったりとした静謐な空気の中、しかし戦地特有の匂いまで伝わってくるようなリアルさで描いてゆく。
主人公が列車にガタゴト揺られて戦地にいる家族を訪ねるというそこの設定に対し、個人的には観ながら、
ロシア映画不朽の名作 『誓いの休暇』(’59)のあの心温まるテイストも思い出して、とにかく、映画は全篇、
詩情に溢れてセピア基調の映像は途轍もなく美しければ音楽だって素晴らしく、思わず胸がグッとなる―。

アレクサンドラが、優しく手を取られて戦車の操縦房に入ってゆくという驚くようなシーンがあるんだけれど、
しかしその、戦車のいかにも冷え冷えとした感じと、つないだ手と手の人肌温かい感じとの対比が秀逸で、
たったそれだけのことでソクーロフ監督は戦争という蛮行の背筋が凍るような非人間性を克明に際立たせ、
また彼女とチェチェン人女性との何気ない会話を静かにすくい取るだけで題材の本質を描き切ってみせる。
とても本作が映画初出演には見えない、実はロシアが世界に誇るオペラ歌手だというアレクサンドラ役の、
ガリーナ・ヴィシネフスカヤの映画的存在感が圧巻。ロシア的家族の肖像を描いたドラマとしても秀逸だし、
ロシア映画として世界最高クラスの芸術水準を高らかに誇示しながら、戦闘場面をいっさい見せることなく、
「戦争に美学なし」という普遍的テーマを昇華させた個人的にはソクーロフ、ベスト級のこれはそんな1本だ。


一方、ロシアといやまたグルジアの南オセチアへ侵攻し世界中から批難を浴びたことが記憶に新しいけど、
そこで、グルジア出身の映画作家といったら、ボクはオタール・イオセリアーニぐらいしか知らなかったのが、
この2008年で生誕100年を迎えたというグルジア映画には、戦後の発展を担った代表的監督なのだという、
テンギズ・アブラゼという作家がおり(1924〜94)、その彼が’84年に旧ソ連の検閲のモト、グルジアで製作、
2年遅れでようやく公開され、そしてソ連崩壊前夜のペレストロイカを象徴する作品と賞賛されたというのが、
いつの間にやら座席が新しくなって座り心地も好くなった神保町岩波ホールで現在公開中の映画 『懺悔』
そんな映画なのに日本での公開はこれが初らしいんだけど、当時ソ連じゃ社会現象にまでなったみたいで、
なるほど内容はスターリンの大粛清に対する真っ向批判を思わせその衝撃は相当デカかったんじゃないか。

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話の舞台は架空の地方都市という設定で、ある女性が教会を模したケーキを並べているシーンから始まり、
そこでその街で長らく市長をしていた男が亡くなって彼女の家を訪ねていた客がそれを大仰に嘆くんだけど、
しかしその市長だった男こそ彼女の両親を粛清・殺害し人生を狂わせた張本人だったという聞けばなるほど、
そのものズバリな内容で、映画は彼女による法廷での市長告発と粛清の回想という2つを軸に語られてゆく。
ただ、もちろん旧ソ連の検閲下で創られた映画だから、ダイレクトな描写が繰り広げられるというワケじゃなく、
あくまでそういう物語が暗喩満載の独創的な語り口と詩的な映像で綴られるという芸術的な映画なんだけど、
正直153分と長けりゃ旧ソ連映画だしそのあまりに敷居の高い雰囲気に感情移入は少し難しいかもしれない。
しかし「過ちは繰り返される」という歴史の本質を描きながら信仰の意味も問うた現代にも通じる作品だと思う。

過ちを繰り返さないためにも、何かと浮かれるこの時期チョット堅めな芸術映画を観てみるのはいかがだろう?
できたらプーチンの柔道DVDで学んだロシアの子供たちにも大人になったら観てほしいと切実に願うんだけど、
逆にロシアじゃソクーロフの映画なんて人気なければ、ホントは名前さえ知られてないんだろうなぁ〜。ウ〜ん。

『チェチェンへ アレクサンドラの旅』
ユーロスペース(渋谷) にて公開中 ]
『懺悔』
岩波ホール(神保町) にて公開中 ]

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