大人よりも苛酷でハードなこどもたちの世界… 『狼少女』

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口裂け女    。この、
いかがわしくもゾクゾクするような噂が人口6万5千人のボクの故郷の町にも流行ったのは、
ボクが6歳か7歳、まだ保育園にいる頃か、それとも小学校に上がったばっかり、
とにかくそれぐらいの頃だったんだけれど、
ボクら頭の悪い田舎のガキどもは、教室でキャーキャー話題にしながらもマジでビビッてたし、
なによりそのいわゆる“都市伝説”は、
「あんまり寄り道ばかりしてると怖い目に遭うゾ」という“教育効果”として機能するものだった。
ところが、それから何10年かが経って、
今や口裂け女は不可解な性的嗜好を心に巣喰わせた異形の怪物として現実のものとなり、
かつて、リサイクルする、というよりも、
子供たちの想像の具体化に役立っていたハズのダンボールは小さな“棺桶”に見立てられ、
そして、そのダンボールで作られた小さな“家”や“秘密基地”があった空地や雑木林は、
いつどこから敵が襲ってくるのかわからない彼らにとっての苛酷な戦場と化してしまった……。
雑木林の奥の真っ暗な闇にこそ、子供ならではの想像の源があるというのに、
学校の帰りの畦道にこそ、大人になってから浸る郷愁の原点があるというのに……。

いつの時代も変わりなく、子供なんてバカで生意気でウルサいものだし、
電車で騒ぐガキなんか親より先にブッ叩いてやろうかといつも思うけど、
洟垂らして呑気にスカートめくりしてりゃよかったボクらの頃と較べると、
確実に“昔”とは違う、荒んだこの時代を生きている現代の子供たちは、
ボクら大人が思ってる以上にハードな現実をやり過ごしていかなきゃならないんだな…と、
本人たちにその自覚がなかったとしても、陰惨なニュースばかりを見ている日々の中では、
自然にそんなことをとりとめもなく考えるようになってしまう。本当に嫌な時代だ。

最近、映画の世界においてもやたらと「昭和」がブームだけど、
ノスタルジックに楽しめる反面、それはこの時代を否定した上でのものであるような気もして、
ボクは、『ALWAYS 三丁目の夕日』 を観ていない……。
だけど、昭和40年代生まれとしては、やはりどこかで「昭和」という響きに離れられないとこがあって、
それで選んだのが今回の 『狼少女』。
ヤタラと暗~い書き出しで始めてここまで来てしまったけれど、
自分の子供の頃のことを思い出しながら同時に今の子供たちの生活にも想いを馳せつつ、
つまり、やはり子供は今も昔もこうであってほしいし、今も昔もガキはガキなりに大変なんだ、
ということを垣間見せてくれる、これは素直にいい映画だった。

 町の神社に訪れた“見世物小屋”に興味津々な小学4年生の明(鈴木達也)。
 ひょんなことから彼は、才色兼備で気の強い転校生の留美子(大野真緒)と、
 いつもボロボロの服を着ているイジメられっ子の秀子(増田怜奈)と仲良しに。
 ところが、見世物小屋の余興として人気の“狼少女”の正体が、
 秀子であるという噂が学校で流れ始めて……。

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見れば誰もが想い出す、
田んぼのなかの畦道、青空がいっぱいに広がる空地、橋の欄干、神社の境内、学校の教室、
そんなものを映しながら、
映画は明たちのとりとめもない日常を、やわらかなタッチでスケッチしてゆく。
カメラは決して子供たちを“上”(大人目線)から見下ろすことなく、
1人の子供に近づきすぎたり遠ざかりすぎたりすることもない。
そんな中で描き出されるのは、彼らの日常にも大人と同じように存在する、
縦であったり横であったりとケッコウ複雑な、子供たちならではの人間関係。
あんまり深く突っ込んで粗筋に触れちゃうと、
せっかくの物語が台無しになってしまうのでこれより先は書けないけれど、
本作が描いているのは、「昭和」というノスタルジーなどではなく、
いつの時代も変わらない、カラダが小さいながらも見栄や建前に気をつかい、
縦にも横にも世界が狭い分大人より窮屈に感じる苛酷でハードな子供たちだけの社会……。
そんな小さな社会でそれぞれに悩む彼らの気持ちはボクらにだって決して人ゴトではないし、
だから「昭和」を生きる明たちの悩みはそっくりそのまま今の子供たちの等身大の悩み……。

確かに、
昭和を匂わせるアイテムの散りばめ方や演出はかなりあざとく感じもするし、
伏線がわかりやすすぎるドラマの展開は平坦で奥行きにももう一つ欠ける。
ラストの盛り上げ方もあまりに“定番”でググッと登り詰めてくるほどじゃない。
なにより利重剛の芝居はもう少しなんとかするべきだっただろう。
だけど昨今、CM出身だかMTV出身だかでやたらと映像に凝りまくるだけで、
劇場で予告篇を見ても、
イマイチ掴みどころのわからない似たようなテイストを感じさせる日本映画ばかりの中で、
ここまで奇をてらわずにストーリーだけで見せていこうという実直な姿勢は潔くて清々しいし、
この、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)出身の深川栄洋という若い監督の、
子供たちの生き様をじっと見つめる眼差しはとても温かくて高感度も高く、
だから、劇中胸が詰まって目頭が熱くなるような瞬間も何度となくあった。
そう考えると、本作のなかでいちばん感じる“昭和テイスト”はなによりも、
この監督の野暮ったいまでに誠実な映画に向かう不器用な姿勢であったかもしれない……。

決して名作でも傑作でもないけれど、観終わった後は爽やかな後味の残る、
そして、街で子供を見かけたら、「お前らも大変だな、頑張れよ」とひと声かけたくなるような、
“未来は子供たちから借りたもの”というどこかで耳にした言葉も素直に胸に響く良心作だ。

いつも映画の悪口ばかり書いてるのにこんな映画でまんまと涙ぐむなんて、
「俺も年喰ったな…」とほんの少し照れ臭い……。
とかくイベントの多いこの時期に大した予定もないこの身の唯一の楽しみは、
正月に実家へ戻って、7歳と3歳の姪っこ姉妹の屈託のない笑顔を見ること。
何を書いてるのかわからないヘタクソな絵を無理に上手いと言わされながら、
「おじちゃん、まだ結婚しないの~?」と、横目で冷やかされるのが楽しみだ。

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