少年の瞳のなかに翳るポランスキーの半生… 『オリバー・ツイスト』

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ロマン・ポランスキー。
1933年、フランスのパリでユダヤ系ポーランド人の両親の間に生まれ、
3歳の時にポーランドのクラクフに移る。
しかし、ナチス・ドイツによって両親は強制収容所に送られ、母親はアウシュビッツで死亡。
彼もゲットー(ユダヤ人居住区)に入れられたが、脱走して父方の親戚の家を転々とした。

『水の中のナイフ』(1962)、『リパルジョン/反撥』(’64)、
そして 『袋小路』(’65)といった神経症サスペンスで映画監督としての地位を確立。
その後アメリカに招かれ、傑作心理ホラー 『ローズマリーの赤ちゃん』(’68)をヒットさせるが、
’69年8月、渡米前にイギリスで撮影した映画を縁に知り合った、
美人女優の妻シャロン・テートが、カルト集団“チャールズ・マンソン・ファミリー”に、
お腹の赤ちゃんとともに惨殺されるという凄絶な悲劇を体験(通称:テート=ラビアンカ事件)。

事件の精神的痛手からなんとか立ち直って、
’74年には、30年代のサンフランシスコを舞台にした正統派ハードボイルド、
『チャイナタウン』 を成功させた。
しかし、’77年にハリウッドで13歳のモデルの少女と性的関係を結んで逮捕。
それから逃れるためにヨーロッパへと逃亡し、
以来今日まで、アメリカ領土に足を踏み入れてはいない……。

前作、『戦場のピアニスト』 で、
クラクフのゲットーで過ごした苛酷な体験を主人公のピアニストに託してかなり極私的に描き、
過去の歴史的悲劇を現代にも通じる題材として昇華させた名匠ロマン・ポランスキー監督が、
この最新作 『オリバー・ツイスト』 で描くのは、
前作のように“過去”ではなく“未来”(子供たち)へと目を向けた今を生きるためのメッセージ。

でも、
いかにも大作然とした印象を植え付ける各種宣伝スポットのポジティヴなイメージとは違い、
本作もまた、『戦場のピアニスト』 と同様、
監督の凄まじい半生からくる“受け身”の人生観が色濃く反映された、
よって温かさの裏に一種の翳りがある陰影の濃い作品として仕上がっている。
もしかしたら、そこに釈然としないものを感じて、
本作をどう受け止めたらよいのか迷ったという人も多いのかもしれないが、
“ポランスキー=オリバー・ツイスト”の人生は、
最初から選ばれて優遇扱いの中でヌクヌクと成長するハリー・ポッターとも違えば、
ダメっぷりを周りから愛され仲間たちの助けを受けて成長してゆくホビット族のフロドとも違う。

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 19世紀のイギリス。
 養育院で育った天涯孤独の少年オリバー(バーニー・クラーク)は、
 9歳になり救貧院に移されるが、間もなく追放され、
 一旦は葬儀屋に引き取られるものの、そこからもまた逃亡。
 大都会ロンドンへとなんとか自力でたどり着く。
 そこで彼は、その正体を何も知らないまま、
 悪党フェイギン(ベン・キングズレー)率いる少年たちのスリ集団に加わるが、 
 やがて運命に翻弄されるように怖ろしい事件へと巻き込まれてゆく……。

劇中でオリバーを演じる新星バーニー・クラークの本当の魅力は、
その純真な瞳の奥に宿したおよそ9歳らしからぬ憂いの深さ……。
その憂いの深さとは、言い換えれば9歳にして達観してしまった人生に対する諦念だ。
オリバーはポジティヴな男のコでもなければ、かといって決してネガティヴな男のコでもない。
天涯孤独の彼には、ただ目の前の現実を“受け入れる”しか生きてゆく術がないんだ。

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オリバーの人生をひと言で表すなら、それはまさしく“川の流れのように”。
救貧院で大人たちにコケにされても反抗心を抱かず、
クジで“ハズレ”を引けば、
「もっとおかわりをください」と食事の時間に素直に言って施設を追い出され、
“ロンドンまで70マイル”という壁の字を見れば小さな体を引きずってロンドンまで歩き、
そこで知り合った少年に誘われれば何も知らないままその仲間にも加わり、
与えられれば自分の身の丈に合わない大きな靴でも素直にはいて、
そのうち泥棒の片棒を担がされ、挙句銃で大ケガを負っても誰をも恨まず、
彼を唯一助けようとしたやさしい女は知らないところで惨たらしく殺されて、
そしてその元凶となった男もまた目の前で首を吊られて(事故)息絶える……。

そんな、次から次へと悲惨な目に遭わされる稲川淳二も真っ青なオリバーの人生を見て、
「幼児虐待映画だ!」と声を荒げるのはお門違い。
だってオリバーは、目の前に起こる現実を“ありのまま”に受け入れることが、
生きてゆく方策と無意識のウチに心得て育ったのだから……。

ゲットーで虫ケラのように殺されてゆく人々の生命のはかなさや、
愛した妻をお腹の子供ごと惨殺されるという事件など、
フツーだったら気が狂ってもおかしくないような過去を淡々と受け入れてきたポランスキーが、
すべての現実を驚くほどの達観で受け入れてゆくオリバーの瞳に、
自身の死生観を託しているのは明らかだ。

だけど、『戦場のピアニスト』 とこの映画が違うのはそのクライマックス。
ラストでオリバーは、9歳の人生にして初めて確固たる“意志”を見せるんだ。
それが何かは言えないけれど、
そこにはもしかしたら、凄惨な半生を淡々と(変人的に)受け止めてきたポランスキーの、
齢70歳を超えてついに思う、
“何か”に対する生きていることへの感謝の念が込められていたのかもしれない……。

チェコのスタジオに再現した19世紀ロンドンの雰囲気も生々しい、
観応えのある上質な映画だと個人的には思うけど、
これから 『オリバー・ツイスト』 を観るという人は、
そんなポランスキーの暗黒半生を、少し知っておいた方がいいかもしれない。

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