戦争の“虚しさ”を体感する究極の反戦映画… 『父親たちの星条旗』

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“対テロ”をすべての大義名分に、
なんの罪もないイラクの人々の命まで奪い続けるばかりか、
イラクで命を落とすアメリカ兵の人数が、10月だけで100人を超え、
今年、最悪の水準になったと世界中に報じられているにもかかわらず、
今度の中間選挙に向けていまだに対テロ戦争はうまくいっていると、
平気でホザくブッシュの愚かさといったら本当にはなはだしいばかり。
民主党のケリー上院議員がどこぞの大学での講演で学生たちに対し、
「努力しなければキミたちもイラクで苦労するハメになる」と発言したのを拾って、
「イラクで戦っている兵士たちを侮辱している!」と、
ここぞとばかり上げ足を取りイメージアップ作戦を図っているけど、
いつまでそんな空々しいプロパガンダをつづけてゆく気なのかあの人は。

仮にブッシュがこの映画を観たとしても、
ヤツは平気で、「素晴らしい映画だ!」などと言うのだろう。そしてその後で、
「これ以上、犠牲者を出さないためにも、平和実現に向けて我々は戦い続ける!」と、
鼻の穴を膨らませ平気の平佐でそうのたまうに違いない。

ハリウッド随一の名優にして世界的な名監督でもあるクリント・イーストウッドが、
“敵”“味方”じゃなくひとつの戦争を戦い合った双方の視点から描くという、
当たり前のようでいて今まで誰もやらなかった目からウロコの方法で、
太平洋戦争における“硫黄島の戦い”を映画にしたとして話題の“硫黄島二部作”の第一弾、
『父親たちの星条旗』―。
もちろんこれは映画史に名を刻む新たな反戦映画の名作であることに違いはないけど、
しかし、『ミスティック・リバー』 で、
“運命の呪い”というテーマを至高の不条理ミステリーに昇華させ、
つづく 『ミリオンダラー・ベイビー』 で、
生きることの哀しみを呑み込む珠玉の人間ドラマを見せてくれたとは言え、本来は、
“娯楽映画の大巨匠”であるイーストウッドさえついに反戦映画を撮らなければならないほど、
世界はどんどん酷い状況になりつつあることを痛感させられるものとして、
本作鑑賞後の余韻は、深い感動とともに途轍もなくヘビーだ……。

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 第二次世界大戦の重大な転機となった“硫黄島の戦い”で、
 米軍兵士たちはその勝利のシンボルとして、摺鉢山に星条旗を掲げる。
 しかし、その光景を収めた写真は、
 長引く戦争に疲弊したアメリカ国民の士気を高めるためのプロパガンダに利用され、
 実際に旗を掲げた6人の兵士の内の生存者、ジョン・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)らは、
 たちまち英雄に祭り上げられ、戦争資金調達のために国中を廻らされる……。

見せるべきものを見せるべきところで虚飾なく見せ、
あとは役者たちの自然体の実力を引き出す懐の深い演出と、
それに応える演技陣のほかでは見られない本物の芝居に、
観客に伝えるためだけにドラマに抑揚を付ける映像と音楽と、
今回もイーストウッドは、至極シンプルな熟達された作劇術で、
ただひたすら“戦争”というものの本質である“虚しさ”だけをフィルムに焼き付けてゆく。

なんの感情もなく、いきなり飛んでくる弾丸や爆弾たった一発によって、
さっきまで意志により動いていた人間の肉体が血にまみれたただの肉の塊に化すという、
戦場の呵責なきリアルは、延々と醒めない悪夢のようにただただひたすら惨たらしく、
たまたま戦場でうまくカメラに収まったというだけの仲間との一葉の写真を、
自分だけは絶対に安全地帯から踏み出さない愚かな戦争指導者たちにまんまと利用され、
甘い汁でうまく騙され、そして使い捨てカイロのように棄てられる主人公3人の姿は、
人はなんのために生まれてきたのか?と思わずにはいられないほどただひたすらに哀しい。

そうした戦争の虚しさと戦争に翻弄される非力な人間の哀しさは、
世代から世代へと語り継いでいかなければならないという意味も込めて、
本作は戦争当事者ではなくその次の世代の視線、というカタチで終始語られてゆく。
本作を、いまだ対テロ戦争は成功していると国民にウソをついている、
現ブッシュ政権に対する痛烈な批判として観ることはもちろん可能だけれど、
しかしイーストウッドは、そういう政治的なアジテートを映画のなかで決して強めたりはしない。
彼が描くのはただひたすら巨大で愚かな意志に巻き込まれてゆく“個人”の哀しみ憎しみだ。
『ホテル・ルワンダ』 や 『ワールド・トレード・センター』 がそうであるように、
悲劇に巻き込まれた個人の感情に寄り添うことだけが、
部外者(つまり観客)が悲劇を体感できる唯一の方法だとイーストウッドは知っている。
映画が“戦争を描く”とはそういうことなのだ。

そしてもちろん、“戦争に英雄などいない”という本作の大きなテーマには、
自身、ハリウッドを代表する大スターと長年言われ続け、
しかしその名声に静かに抵抗し続けて、「自分はただの愚かな人間にすぎない―」と、
『許されざる者』 を撮り、『ミリオンダラー・ベイビー』 を撮り上げた、
イーストウッドというひとりの巨人の他者には決して理解できない哀しみも、
きっと反映されているに違いない……。

“硫黄島の戦い”を今度は日本側から描いた 『硫黄島からの手紙』―。
イーストウッドが日本を“どう”描いたのか、いよいよ期待は高まる一方だけど、
その前にとにかくイーストウッドらしい、静謐でしかし骨太な反戦映画、『父親たちの星条旗』。
大きな劇場も自然と静まり返る深い余韻に充ちたエンドロールも胸に沁み入る名作だ。

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