時代劇の復権を高らかに告げる大傑作! 『武士の一分〈いちぶん〉』!

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木村拓哉と同い歳(’72年生まれ)。そう考えただけで、
「俺に生きてる意味なんてないんじゃないか?」と嫌になるくらい、
多角的に見てそれはもう完璧な男なんじゃないかと思う―。
しかし、TVをつければ目にしない日はないというほど多くのCMに出演しているキム兄だけど、
その実、商品は違ってもどれもこれも似たようなCMばっかりで、
いい加減飽きてくるという気がとくに最近しないでもない。
だけどそれは、キム兄自身の責任というよりも、
“木村拓哉”というその価値が世間に定着したソフト本体に頼り切るばっかりで、
ソフトから新しい魅力を引き出そうとしない、もしくは引き出せない、周りの責任なんだと思う。
1コ当たれば冒険せずに、それに追随するような似た作品ばかりを量産し続ける。
これは何も、CMに限らず映画についても言えることで、
たとえばオダギリジョーなんてまったくそのテで、彼は最近の若い役者のなかじゃ、
すごく“役者”であろうとしている骨のあるタイプだと思うんだけど、
ソフトを活かす才能に恵まれてないモンだからいつまで経っても役者としての印象はハンパ。
それは、あれだけ大量の映画に出演していながら、
いまだにコレという代表作が1本もないことを見れば一目瞭然だ。
あと、ジャンルがまるで違うけど「ほしのあき」も同じ。
せっかくグラビアアイドルの地位を上げようとプロ意識を持って頑張っているのに、
似たような“腕”にタライ廻しにされているだけでなんだか可哀想になってくる。

とにかく、役者にしてもなんにしても同様、
ソフトは粒が揃っているのにそれを活かせる才能が少なくなってきていることが、
ひいてはこれだけ毎年毎年大量の日本映画が作られながら、
どこかその印象はくすぶっているように見えるというところにつながってくると思うんだが……。

そんななか、話は戻り木村拓哉。
当然、時代劇に対し人気絶頂のキム兄をメインに当てて、
1発当てようという案の定、TVがガッツリ喰い込んだその思惑は見え見えなれど、
しかしそれを上廻ってソフトを活かす術を心得た、
確かな腕によってキム兄新たな魅力の開眼と相なったのがこの、
名匠・山田洋次監督の藤沢周平原作映画三部作の大トリ、『武士の一分〈いちぶん〉』 だ!
だけど、それだけじゃなく本作は、キム兄の今までにない魅力を引き出すと同時に、
今じゃすっかりその灯火が消えかかっている“時代劇”という日本映画の誇るべきジャンル、
その灯火を今再び燃やし、
まさしく時代劇の復権を高らかに告げる傑作に仕上がっていて二重の驚きなんだ!

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 藩主の毒見役を務める下級武士の三村新之丞(木村)は、
 妻の加世(檀れい)と2人、慎ましく暮らしていたが、
 ある日、貝の毒にあたって失明してしまう。
 夫を助けたい一心の加世は番頭(ばんがしら)の島田(坂東三津五郎)に弄ばれ、
 その事実に絶望した新之丞は加世に離縁を言い渡す。
 愛する妻を陵辱された怒りと悲しみを胸に秘め、
 新之丞は島田に、“武士の一分”を賭けた果たし合いを挑むのだった……。

冒頭、名匠の懐のなかでのびのびと、
何不自然なく方言を駆使しながら芝居をしている木村拓哉の役者としての安定感。
彼を軸に据えた、その安定感にスーッと引き込まれてこの映画は早くもキマリだ。
それでも物語の初めの方じゃ、得意のアドリブを決めようとしている余裕もあり、
それが感じられて若干芝居が鼻につかないでもないけれど、
ドラマが進むにつれて、それさえも監督の計算づくの演出であるかのように、
安定感は増し、下級武士の非業の物語もいよいよ引き締まってゆく。

毒見役などという、クソ面白くもなんともない仕事がやがて途轍もない悲劇を呼ぶ世の無常。
理不尽に晒されて浮かび上がるのは、慎ましくても美しいここにしかない幸せ。
しかし視力を失いそれ以外の神経が必要以上に研ぎ澄まされてしまった新之丞は、
その幸せさえ視力とともに見失いやがて生まれる猜疑心は妻の加世に向けられてゆく。
ヘタをすれば理不尽が堂々まかり通る社会で働くすべての人に当てはまりかねない悲劇。
しかし本作は、『たそがれ清兵衛』 で見られた説教臭さを極力抑え、
ただひたすら新之丞が武士としての誇り、“武士の一分”を取り戻してゆく過程を見つめる。
ツマラナイ仕事に対してまったくプライドが持てずに、
やがて人生に絶望する主人公の姿はとても人間臭くてリアル。
視力を失う主人公というのは実は、煩わしい社会に毒され、
大切なものを見失いがちなボクたち現代人の姿なのかもしれない。

新之丞と加世の夫婦の関係に現代を見るのは難しいかもしれないけど、
しかしそれは後の新之丞と島田の果たし合い―人の弱みにつけ込む輩は許せない―という、
時代劇の痛快なセオリーと伝統的な理念を明確に浮かび上がらせてもくれるのだ。
慎ましやかな市井の人々の幸せとそれを踏み躙る理不尽、
そしてそれに負けない庶民のしなやかさと悪を打ち負かす強靭さ。
新之丞の場合その強さの集約があの剣の腕であり、
そしてそれこそが、彼にとっての“武士の一分”なのである!
このカタルシスこそ、時代劇だ!

先にも述べたように、個性を抑えた木村拓哉の芝居がとにかくよくて、
殺陣の巧さも想像以上でさすが芸事には厳しいジャニーズ出身の面目躍如。
まるであつらえたように古風な顔立ちの檀れいは彼の“男”を引き立てる。
なにより脇をガッチリ固める笹野高史の存在感はいくら激賞しても足りないほどに素晴らしく、
もちろん、坂東三津五郎の時代劇らしい憎まれ役もこれまた物語にグイグイ艶を出す。
個人的にはまんま往年の 『必殺!』 のような展開に大いに血湧き肉が躍った、
前作、『隠し剣 鬼の爪』 も捨て難いけどやはりこれがダントツの出来!

とにかく!
シリアスななかにも仄かな笑いに心が和み涙の後に元気をくれる、
古風な夫婦愛の物語と小味の鋭く利いた剣劇の面白さに時代劇の復権を確信する大傑作!

震えがくるほど面白い。

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