“品格”とは、自分に対するリスペクト… 『ツォツィ』

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“品格”、という言葉が、
昨年話題になり、流行語扱いされたけど、
その時点で(当然ボクを含む)今の日本人に、
品格なんてあまりないんじゃないだろうか…?

ボクにとりアフリカはいまだ未踏の大地だし、
いわゆるスラムなんてどこの国にもあったけど、
(どこの国にも…というのは若干語弊があるけど)
やはり実際にアフリカを縦断して南アにも訪ねた友人に訊くと、
なかでもヨハネスブルクの一部物騒な雰囲気には別格の趣があり、
バスでスラム近辺を通る時は車中でさえ恐怖を覚えるほどだったようだ。

だけど、アメリカでまた信じ難い事件が起きると同時に、
日本でも銃による殺人や立てこもり事件が立て続けに起き、
世の中、いや世界中で「格差、格差」と言われるのとは反対に、
暴力やその根幹をなす憎悪の渦巻き方は均一化されていってるような印象を受ける。
憎悪は何も、途上国のスラム街にだけ渦巻いているワケじゃない。
“憎悪のグローバル化”は確実に進んでいる―。

他者への憎悪、というのは、
裏を返せば、“自分に対するリスペクト”の欠如だ……。
遥か南アフリカから届いた衝撃の映画、『ツォツィ』 は、
指針を見失い言葉に迷うボクらにそれを教えてくれる。

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 南アフリカ―ヨハネスブルク。
 スラム街に暮らすツォツィ(プレスリー・チュエニヤハエ)は、
 激しい憎悪を胸に仲間とつるんでは窃盗やカージャックを繰り返す荒んだ日々を送っていた。
 ある晩、高級住宅街にやって来た彼は車を邸宅内に入れようとしていた女性を撃って逃走。
 しかし、強奪した車の後部座席に生後間もない赤ん坊がいることに気がついたツォツィは、
 赤ん坊を紙袋に入れ、自分の部屋に連れ帰るが……。

アフリカ映画としては、
初のアカデミー外国語映画賞受賞(2006年)ということで話題の本作。
舞台は世界で最も危険な街のひとつ、南アフリカのヨハネスブルク、
主人公の少年ツォツィが暮らすのはかつてアパルトヘイト時代に、
南ア国内最大の黒人居住区だったソウェトの貧しいスラム街。
『ナイロビの蜂』、『ダーウィンの悪夢』 にも比肩する鮮烈な映像で切り取られる、
それはもう、救い難いとしか思えないような呵責なきアフリカの現実―。
だけど、この映画が描くのは何もアフリカに巣喰う壮絶な“貧困”の実態なんかではない。

そしてまた、この南ア出身の新鋭監督がダイレクトに描いているのは、
なんとなしイメージされるようないわゆる主人公の“成長”というのでもない。
『日本製少年』、『SWEET SIXTEEN』、『息子のまなざし』、『ある子供』、
『憎しみ』、『シティ・オブ・ゴッド』、『キッズ/KIDS』 などなど……、
世界のあらゆる苛酷な青春を描いた様々な映画の記憶を彷彿とさせつつも、
本作がただシンプルに、そして真摯に描くのは、
内面を憎悪に充たされて、それを暴力で昇華させることしか知らずに育った少年の心に、
ひとつの小さな命と出逢ったことで初めて芽生えた小さな“変化”だ。

映画が描く主人公の心の成長物語は、
時として映画的予定調和に支配されるものだけど、
これはただ、主人公が自分の心に芽生えた変化に戸惑う姿を、
その戸惑う姿を祈るような目線で静かに見つめ続けるだけ。
愚かなツォツィは、ラストまで、愚かなツォツィのままだ。
だけど、その愚かさが小さな命とのふれあいによって確かな何かに変わりゆく様子、
それをただじっと見つめる目線はいつの間にか我々観客の目線と同化し、
そしてその瞬間に合わせるように映画は映画としての幕を閉じ、
そこから初めて、主人公の心の成長の物語が始まる……。
スクリーン越し、映画と観客が対話するとは実はこういうことなのだ。

劇中、登場人物のセリフに、「“品位”の意味がわかるか?」というのがある。
品位とは品格とも言える。「“品位”は自分へのリスペクトだ。暮らしは関係ない」
ツォツィが赤ん坊を見殺しにできなかったのは、彼の人間としての潜在的な良心だ。
そして良心というのは、命へのリスペクトから生まれる心なんじゃないだろうか…?
小さな、しかし確かな命は、ツォツィに自分へのリスペクトを呼び醒まさせたのだ。

それを甘い理想主義やヒューマニズムと見る人もなかにはいるかもしれない。
だけど、呵責なき憎悪の大地だからこそ良心は生まれるハズと信じる、
作者の被写体への視線は極めて真摯で信頼するに充分足るし、
それこそ安易な感動主義に陥らないヒリヒリするようなクライマックスは、
混迷する対立の時代に向けられた普遍的なテーゼとして、どこまでも昇華する。
ツォツィの物語が描くのは、南アの“今”であると同時に、ボクたちの“今”でもあるのだ。

アナタは自分をリスペクトしているか? ボクは自分をリスペクトできるか?
上を見上げ、下を見下し、実体のない言葉に惑わされ指針を見失う日本人に、
遥か苛酷な大地から届いた1人の少年の生き様が言葉を超えて問いかけてくる。

TOHOシネマズ六本木ヒルズ にて公開中 ]

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