慟哭する映画たち! 『最愛の子』&『バーバリアンズ セルビアの若きまなざし』&『殺されたミンジュ』

『最愛の子』


どうして世の中にはこんな悲惨な話があるのだろう…もう体内にどれだけ水分があっても足りないぐらい泣けた。
しかし決して安易なお涙頂戴には走らず最後まで“愛”とは何か、人間にとって大切なものは何かを問いかける、
実話を基に現代中国のもはやどうしようもない光と影を描き出す名匠ピーター・チャン監督の完璧なる仕事ぶり。
全篇、ノーメイクで挑む(それでも美人)ヴィッキー・チャオはじめホアン・ボー、ハオ・レイとキャストも全員実力派。
とくにおよそ 『西遊記~はじまりのはじまり~』 の孫悟空と同じ役者には見えないボーの名優ぶりにはびっくり!
そして、胸をしめつけるような映画の奥深い印象とはまた別にロウ・イエの 『二重生活』 とは全然雰囲気が違う、
ボーの別れた奥さん役に扮するハオ・レイのふっくらとした感じが個人的にどストライクすぎてたまらんかった…。
中国では、本作をキッカケに児童誘拐問題が注目され人身売買に関する刑法も厳しくなったという。素晴らしい。

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映画が社会を動かしたまさしく中国版 『トガニ』

『最愛の子』(2014年・中国=香港/カラー/130分)
【監督】ピーター・チャン( 『君さえいれば/金枝玉葉』 『ラヴソング』 『ウォー・ロード/男たちの誓い』 『捜査官X』 )
【出演】ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー、キティ・チャン
【配給】ハピネットビターズ・エンド
【5段階評価】★★★★★
【鑑賞劇場】シネスイッチ銀座1
【鑑賞料金】1,500円(前売券)

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『バーバリアンズ セルビアの若きまなざし』


これもよかった! かの怪作 『セルビアン・フィルム』 も実に強烈だったけどこの映画も違う意味で衝撃的な1本!
コソボがセルビアから独立を宣言した2008年を背景に彼の地に燻ぶる若者たちの鬱屈とした現状を炙り出した、
『憎しみ』 『SWEET SIXTEEN』 『ソフィアの夜明け』 も彷彿とする、ダークなセルビア版 『トレインスポッティング』。
ここまでセルビアの若い連中の心に寄り添いその機微をリアルに切り取った映画は史上初めてじゃなかろうか?
単純に観ちゃうと、いよいよセルビアが彼の地域の問題児みたく思えるかもだけど、もちろんそれは誤った見方。
本作が一方で描くのは、いかに社会の混乱が暴力的な民族主義につながりやすいかという世界共通の問題だ。
紛争を直接描くことなくコソボ紛争の影を感じさせる脚本が本当に秀逸で役者も素人とは思えないぐらいリアル。
新人離れした語り口で忘れられた若者たちの怒りを描くこの監督はまさしくセルビアのマチュー・カソヴィッツだ!

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パレスチナと同じくらいコソボ問題も根が深い…。

『バーバリアンズ セルビアの若きまなざし』
(2014年・セルビア=モンテネグロ=スロヴァニア/カラー/DCP/シネスコ/5.1ch/87分)
【監督】イヴァン・イキッチ
【出演】ジェリコ・マルコヴィッチ、ネナド・ペトロヴィッチ、ヤスナ・ジュリチッチ
【配給】アニモプロデュース
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】シアター・イメージフォーラム2(渋谷)
【鑑賞料金】1,100円(会員)

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『殺されたミンジュ』


うーん…粗い。女子高生を無残に殺した7人の男らが謎の7人組によって次々と拉致され拷問を受けるという話。
どうやらその少女の父親か近しい者と思われる男の元に日々誰かから虐げられている不特定の男女が集合し、
各々の怒りを社会正義に変換して権力に守られているらしい犯人たちにぶつけるという発想は面白いんだけど、
如何せん個々が怨む人間を1人の役者が全員演じてしまうというヘタをするとギャグにしか見えない妙な設定と、
『嘆きのピエタ』 などに較べれば怒りの描写が淡泊なせいで全体的にとっ散らかった印象になってしまっている。
少女の殺された理由が最後まで明かされないというのも寓意を持たせたいゆえなんだろうけどスッキリとしない。
だから途中からいかに下の者が連帯しても所詮権力者には勝てぬというSMAP的な寓話として本作を観ていた。
マ・ドンソクの最後の絶望の雄叫びに今いちばん感情移入できるのはきっと中居くんだと思うな!(よしなさい!)

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まさしくあの会見は“殺されたSMAP”であった…。

『殺されたミンジュ』(2014年・韓国/カラー/DCP/122分)
【監督】キム・ギドク( 『ワイルド・アニマル』 『悪い男』 『コースト・ガード』 『受取人不明』 『春夏秋冬そして春』 )
【出演】マ・ドンソク、キム・ヨンミン、イ・イギョン、チョ・ドンイン、テ・オ、アン・ジヘ、チョ・ジェリョン、キム・ジュンギ
【配給】太秦
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】ヒューマントラストシネマ有楽町1
【鑑賞料金】1,000円(TCG会員ハッピーチューズデー)

【弊ブログ内キム・ギドク監督作品記事一覧】
『鰐 ~ワニ~』(1996年)
『魚と寝る女』(2000年)
『サマリア』(2004年)
『うつせみ』(2004年)
『弓』(2005年)
『絶対の愛』(2006年)
『ブレス』(2007年)
『悲夢』(2008年)
『嘆きのピエタ』(2012年)
『メビウス』(2013年)